第815話 気になってしかたがない

「う~ん……」

 あと五分で午後の部が始まろうとしていた時、俺は目上の人がいっぱいいるにもかかわらず、ブルーシートの上にあぐらをかいて腕を組んで唸っていた。

 さっき綾奈が言った言葉がどうにも気になる。なんだろう、『あんまり笑っちゃダメ』って。

 昼休みに入る時にアナウンスで、『特別プログラムに参加する生徒は一時までに所定の場所へ』と言っていたから、綾奈も千佳さんもその特別プログラムに出るのは理解したけど、その『特別プログラム』と『笑っちゃダメ』がどうにも繋がらない。

 あと五分で一体何が始まるというんだ……?

 難しい顔で唸っている俺に弘樹さんが声をかけてきた。

「どうしたんだ真人君。そんなに唸って、考え事か?」

「そ、そうですね。特別プログラムってなんだろうと思いまして……」

「ん? 真人君は綾奈から聞いてないのか?」

「はい、何も……」

 弘樹さんは意外だったのか、ちょっと驚いていた。

 あれ? この口ぶりと態度から、弘樹さんは特別プログラムが何なのか知ってるっぽい?

「弘樹さん、特別プログラムが何なのか知っているんですか?」

「あぁ。特別プログラムというのは───」

「ダメよあなた~」

 もう少しで特別プログラムの全貌が明らかになるところで、明奈さんが後ろから弘樹さんの口を両手で塞いだ。弘樹さんは驚いてモゴモゴ言ってる。

 少しして明奈さんは弘樹さんを解放した。

「ぷはぁっ! ど、どうしたんだ母さん?」

「もうあと五分もしないうちにわかるのだから、真人君にはこのまま自分の目で確かめてもらいましょうよ」

「えぇ!?」

 明奈さんは口に手を当てて「うふふ」とイタズラっぽく笑っている。笑い方は違うけど、なんか麻里姉ぇっぽいな。

 いや、それよりもだ。

「お、教えてくれないんですか?」

「あら、そんなご飯をおねだりするような可愛い子犬みたいな顔をしてもダメよ~」

「ど、どんな顔ですか!?」

 なんで俺の顔が子犬に見えたんだ!?

 ……いや、綾奈も麻里姉ぇも明奈さんも、みんななぜか俺を「かわいい」って言うから、それでか?

「きっと、真人君は綾奈の姿に目が離せなくなっちゃうわ」

「ますます気になるんですが!」

『綾奈の姿』? ということは、体操着で出てこないってことか?

「け、健太郎……」

「んー……ごめんね真人。教えてあげたいけど、やっぱり直接目で見た方がいいよ」

 健太郎は申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせた。

 というか健太郎……なんとなくソワソワしているような?

 健太郎は教えてくれないとわかったので、俺は慎也さんと千夏さんに『教えてほしい』と目で訴えてみた。

「この流れで俺たちが言うのもね……」

「あと少しなんだから、我慢しなよ真人君」

 くそ、やっぱりダメか。

 こうなったら八雲さんか久弥に電話して……。

 いやダメだ。もうすぐお昼休みが終わるからスマホを持ってないだろうし、それ以前に俺は八雲さんの連絡先を知らない。

 麻里姉ぇ……はダメだ。あの人は明奈さん以上にイタズラ好きだから、絶対に教えてくれない。

 特別プログラムが何なのかを知る術を失った俺は、もう諦めて残り三分あまりをソワソワしながら待つのだった。


 そして三分後、拡声器から江口さんの声が聞こえてきた。

『さーそれでは、午後の部の開始です! まずはみなさんお待ちかね、特別プログラム───』

 周りから「ワッ」と歓声が起こった。主に男子の。

 ついにきた! ついに、特別プログラムが何なのかを知れる!

 さぁ江口さん! 答えをお願いします!


『二、三年生女子選抜による、チアガールコスに身を包んでの合同応援デモンストレーションだー!』


「な、なんだってーー!?」

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