第814話 真人が変えた人たち
「あんたどれだけ人の心を変えてきたのか思い出してみなよ」
「えぇ……そんなに?」
「夕姫と中村の心も短時間で変えちゃうしさ」
中村は短時間ではない気がするけど……。
「修斗のやつも真人先輩と関わって変わりましたね」
それは中学の先生も言ってた。確かに修斗に関しては自覚がある。
「あたしもそうね」
「え、金子さんまで!?」
金子さんの心を変えた? 春休みに出会ったばかりで、特に何か変わった……変えた記憶なんてないのに。
「あたしは中筋君を最初見た時、『おどおどしてて、綾奈ちゃんに頼りっきりで情けない人』って思ってたの。それで綾奈ちゃんに『ダメ男』って言ってしまったわ」
「そ、そうなの?」
金子さんはこくりと頷いた。
もしかして……あの時俺がトイレに行っている時にそんな話をしたのか?
「その時に綾奈ちゃんは全力で否定して、『自分の弱さを見せるのは強い証拠』って言ってて……あたしはそれで中筋君の認識を改めたの」
「トイレから戻って、金子さんの俺に対する雰囲気がちょっと柔らかくなったって感じたのは、そのためだったのか……」
「ば、バレてたんだ……ごめんね中筋君」
「あ、謝らないでよ! 情けない姿を見せたのは本当なんだから。……ありがとう綾奈」
もし綾奈が言ってくれなければ、金子さんとは仲良くなれなかったかもしれない……というか、金子さんを変えたのは綾奈なんじゃないかと思うけど、これは言わないでおこう。
「あ、僕もだね」
健太郎は手を挙げて言った。
「いや、何度も言うけど、健太郎のは単になんのラノベを読んでたのか興味があって───」
「僕も何度でも言うけど、真人が閉鎖的になっていた僕に何度も友好的に話しかけてきてくれたから、結果、僕は前みたいに笑うことができるようになった。姉さんも言ってたでしょ?」
「そ、そうだけど……」
『健ちゃんの心を救ってくれた』と、雛先輩は泣きながら、俺の胸でそう言った。
「むぅ……」
綾奈が俺の腕を抱きしめる力を強めた。
もしかして、俺が雛先輩に抱きしめられた光景を思い出していたのを感じたから? それとも顔に出てた!? いずれにしても、俺のお嫁さん……鋭すぎる。
「そして、あたしと……綾奈もだね」
「は……え!?」
千佳さんが目を細めて、優しい声音で言ったけど……綾奈と千佳さんに関してはマジで自覚がない。
いつ変えた!? 中学の頃はマジでクラスメイトと同じ部活しか共通点がなかったから、高校に入ってから?
でも再会したのは合唱コンクールの会場だし、数分間しか会ってなかったから、そのあいだに綾奈と千佳さんの心を変えるなんてどう考えても不可能だ。
俺が必死に記憶を掘り返していると、綾奈が微笑みながら俺を見て言った。
「真人、私は真人を好きになる前は、あまりいい印象を持ってなかったって言ったよね?」
「あ、あぁ……」
告白の時に、そう言ってたな。
「おばあちゃんのお散歩の手伝いを笑顔でしてるのを見て、私は真人の認識を変えることができた」
「綾奈……」
「あたしもあんたの人となりを知るまでは、夕姫と似たようなことを思ってたし、絶対に綾奈には釣り合わないって思ってたしね」
そ、それも前に……確か中村とゲーセンで再会した時に聞いた気がする。
「つまりあんたは、二年にも満たない期間に七人の心を変えてるんだ。これを人たらしじゃなくてなんて言うのさ」
「え、ええっと……」
いやかなり返答に困ることを言われてるけど、ここで肯定したら自慢するようで感じ悪いし、否定すればここまで言ってくれたみんなに申し訳ないし……。
俺が返答に困って辺りをキョロキョロとしていると、誰かが持っていたペットボトルをポイ捨てしているのが見えた。
「綾奈、ちょっとごめん」
「え? う、うん……」
俺は綾奈に抱きついた腕を離してもらって、ポイ捨てされたペットボトルを拾った。
捨てたやつは……もう見えないな。人が多いから見失った。
ゴミ箱は……近くにないな。あとで捨てるか。
俺がみんなのところに戻ると、千佳さんに「こういうのをしれっとやっちゃうんだからねぇ」と感心したように言われて、綾奈もなんだか得意げにまた俺の腕に抱きついてきた。
「あ! 綾奈ちゃん、千佳ちゃん。そろそろ一時だよ」
江口さんがスマホを見ながら綾奈たちに声をかけた。
一時? 確か午後の部開始は一時十五分で、まだ時間に若干の余裕はあるけど……。
「もうそんな時間か。はぁ……しかたない。行くよ綾奈」
「う、うん……」
綾奈はゆっくりと俺の腕を離した。名残惜しいというより、ちょっと恥ずかしいと思ってそうな顔で。
「千佳、頑張ってね」
「あんがと健太郎」
健太郎は何があるのか知ってるみたいだけど……一体なんだ?
「ま、真人……あんまり笑っちゃ、ダメだからね?」
「え?」
綾奈が眉を八の字にし、頬を真っ赤に染め、上目遣いでそう言うと、千佳さんと一緒に校舎の方へ走っていった。
一体、なんだったんだ?
みんなから何も教えてもらえないまま、高崎生のみんなと別れて、健太郎と一緒に明奈さんたちの元へ戻った。
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