第813話 友人合流

「綾奈ちゃーん! 千佳ちゃーん!」

 お昼休憩も半分くらいが過ぎ、お弁当を食べ終えて雑談をしていた頃、後ろから綾奈と千佳さんを呼ぶ元気いっぱいな声が聞こえた。

 この声、もしかしなくても───

「あ、乃愛ちゃんたちだ!」

 やっぱり江口さんだった。

 いち早く声がした方を向いて江口さんたちに手を振る綾奈。

 俺も少し遅れて声がした方を見ると、予想通り楠さんと金子さんもいて、八雲さん、そして予想外に久弥の姿もあった。

 八雲さんはすっかり江口さんたちと仲良くなったみたいだな。

「行こっ、真人」

「うん」

「あたしも行くよ。健太郎はどうする?」

「僕も行くよ」

 俺と健太郎は、それぞれパートナーに手を引かれる形で立ち、四人で江口さんたちの元へ向かった。

「中筋君、それに清水君……だよね? 久しぶり!」

「うん。久しぶり。先月以来だね。楠さんと金子さんも」

 俺と健太郎は同い年の三人と「久しぶり」を言い合った。

 俺が江口さんたちと最後に会ったのは、八雲さん……というか『圭×綾カプ至高同盟』の件以来だ。約一ヶ月半ぶりの再会だが、学校違うし家も駅単位で離れてるからな。

「あの、真人先輩……隣のイケメンさんは?」

 同い年組で挨拶を終えると、八雲さんが俺の隣にいる健太郎について聞いてきた。そういや八雲さんと久弥は会うの初めてだったな。

 平然としているからイケメンの健太郎にドキドキはしていないみたいだ。

「彼は清水健太郎。一哉と同じく俺の親友で、千佳さんの彼氏だよ。健太郎、このふたりは八雲夕姫さんと横水久弥君。俺と綾奈、そして千佳さんと同じ中学の後輩だ」

 俺がそれぞれ紹介すると、三人は自己紹介をした。

 と、ここで金子さんが「あれ?」と言って、首を少し傾げながら続けた。

「夕姫ちゃんって、いつから中筋君を名前で呼ぶようになったの?」

 金子さん、本当によく気づくというか……八雲さんもさらっと言ったから、聞き流されてもおかしくなかったのに。

『真人神様』にも一番に反応していたし、金子さんには聞き慣れない言葉を瞬時に拾うアンテナでもついてるのか?

 ちなみに綾奈と千佳さんは知っている。あの日に八雲さんは綾奈の前でも俺を名前で呼んでいたからだ。その時の綾奈の反応が……。

「……」

 今みたいにじと~っとした目を八雲さんに向けていた。

 香織さんや雛先輩が俺を名前呼びにしたって事後報告をした時はあんなに普通にしてたのに。

 そしてあの日、俺も八雲さんを名前呼びにした方がいいのでは? と考えていた俺だけど、綾奈は絶対に『ダメ』と言う確信めいたものがあったから、今もこうして苗字呼びのままだ。

「本当だ! ねえ夕姫ちゃん。いつからなの?」

「八雲さんは中筋君を嫌っていたのに、急に距離を詰めてる感じがする」

 それは……うん。俺も思った。

「名前で呼び始めたのは一、二週間前からです。中学では真人先輩の良さなんてこれっぽっちも見なくて、一方的に嫌っていたので、これからはそれを埋める……ってわけではないですけど、尊敬する先輩のひとりとして、親しみを持って真人先輩と接していけたらなって、思いまして……」

 八雲さんは「えへへ……」と照れたように笑った。このふにゃっとした笑み……笑い方まで綾奈をリスペクトしてるのか!

「そっかー! 私は夕姫ちゃんが中筋君に惚れたのかとちょっと思ってたよ」

「えっ!?」

 八雲さんが……俺を?

 いやいやありえないだろ。嫌いから一気に好きに変わるとか。しかも異性としての好きとか……江口さん何言ってんだよ。

「あ、それは……ないですよ」

 なんでちょっと間があったんだ? 微妙に顔が赤いし。

「むぅ……」

 綾奈が頬を膨らませて俺の腕に抱きついてきた。明らかにヤキモチを焼いている。

「綾奈先輩の旦那様を好きになったりしないですよ。嫌っていた真人先輩がまさかあんなスマートに私を助けてくれるとは思ってなかったから……ギャップでちょっとドキドキしただけです。だから悪いのは真人先輩の人たらしです」

 さらっと俺に責任転嫁しちゃったよこの子!

「そっか! ならしかたないね!」

「なんで納得してんの江口さん!」

 み、みんなも、綾奈まで「うんうん」と首肯してるし……。

 人たらしって……俺が? いやいやそんなわけないだろ。

 俺が「いやいや……」と言いながら手でも否定していると、千佳さんが嘆息混じりにこう言った。

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