第811話 照れからのイチャイチャ

「「いただきます!」」

 昼食がスタートして、並べられた四つの重箱俺はまず中に黒いものがある卵焼きを掴み口の中へ。

「……!」

 なるほど。これは海苔か! 卵の上に海苔を敷いてそのまま巻いたんだな。

 そして海苔を敷いているからか、卵自体はちょっと甘めの味付けだ。

「美味しいです明奈さん!」

「うふふ、良かったわ。いっぱいあるから千佳ちゃんも健太郎君もどんどん食べてね」

「はい。ありがとうございます明奈さん」

「ありがとうございます。明奈さんの料理、久しぶりだけどやっぱり美味しい! うちのと全然違う」

「千佳、あんたねぇ……って言いたいけど、実際そうだしね」

 千夏さんはからからと笑っている。

 明奈さんの料理、やっぱり相当上手なんだな。

「でも僕は千夏さんの作るお料理も好きですよ」

「健太郎君……あんたええ子や」

 健太郎がすかさずイケメンスマイルを見せて未来の義母をフォローし、千夏さんは感動したのか涙を拭う素振りを見せた。涙は出てないけど。

「というか、健太郎は千佳さんの家によくお呼ばれされてるのか?」

 千夏さんの料理を食べたことがあるイコール、千佳さんの家に行ったことがあるということだ。千夏さんも慎也さんも、すっかり娘の彼氏として認めてるし、もしかしたら俺のようにけっこう頻繁に行ってるのかも……。

「たまにかな。家が離れてるから真人ほどは行ってないよ」

「てかあんたが行きすぎなんだよ真人」

「え?」

 俺たちの会話に割って入りそのツッコミだけすると、千佳さんは箸で唐揚げを刺してそのまま口の中へ。

 た、確かに行きすぎかなと思ったことがないと言えば嘘になるけど、でも明奈さんも弘樹さんも俺が頻繁に家に上がっても嫌な顔ひとつしないで笑顔で出迎えてくれるし……いや、でも……う~ん。

 俺はちょっと焦った表情で明奈さんを見ると、明奈さんは俺ににこっと微笑んだ。

「真人君は私たちの息子なんだから、うちに来るのが悪いなんてこれっぽっちも思ってないわ。ねぇあなた」

「そうだな。真人君が来ると綾奈はもちろん、俺たちも嬉しいからな」

「あ、明奈さん……弘樹さん……」

 おふたりの温かい言葉にじ〜んと胸が熱くなる。焦りも消えて心が満たされていく。

「だから毎日でも来てくれていいのよ」

「その……ありがとうございます」

 さすがにそれは迷惑では? と一瞬考えてしまったけど、明奈さんは冗談で言っていない。にっこにこでガチで言っている。そのうち『毎日夕飯一緒にどう?』みたいなことを言われそうだ。

「明奈さんたちは優しくてよかったね真人。他の人たちなら絶対にこうはならないよ」

「わ、わかってるよ千佳さん。おふたりにずっと認められるよう頑張っていくつもりだし」

 いくら明奈さんたちが優しくても、それだけで俺を綾奈の婚約者と認めてくれていないのはわかってる。おふたりの期待を裏切らないためにも精進は続けていくつもりだ。

 とはいえ今はこの絶品の昼食を堪能しよう……そう思ってブロッコリーを箸で掴んだんだけど、義両親に言われたことがまだ嬉しく、照れが抜けきっていない俺は、無言でブロッコリーを綾奈の顔の前に持っていった。

「っ! ……あ~ん♡」

 俺の突然の行動にちょっとびっくりしていた綾奈だけど、頬を染めながらブロッコリーをパクリと食べた。

 幸せそうにブロッコリーを食べる綾奈を幸せな気分で見ながら、俺は綾奈がブロッコリーを飲み込んだタイミングで声をかけた。

「美味しい?」

「おいしい。真人が食べさせてくれたからもっとおいしいよ」

 そう言い、綾奈は腰を浮かせて俺にピッタリと腕をくっつけてきた。

 そして俺の肩に頬擦りをして甘えてくる。

 さっき汗がどうのとか、学校の人いっぱいで恥ずかしいとか言ってたけど、もしかして甘えモードに入った?

 そう思いながら、俺は綾奈の頭を撫でた。

「どこでもイチャつくって千佳から聞いていたけど、冗談だと思ってたのにマジだった……」

「微笑ましくていいじゃないか」

 千夏さんがちょっと驚き、慎也さんが微笑ましいものを見るような目で俺たちを見ていたけど、俺はあまり気にせずにもう少しだけ綾奈の頭を撫で続けた。

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