第809話 愛のある声援
チーム『朱雀』が再スタートしておよそ二分が経とうとしていた。
残り時間はあと三十秒ほど……俺は綾奈たちから目が離せずに、固唾を飲んで見ていた。
『チーム『朱雀』、凄まじい追い上げ! 開始直後はどうなることかと思いましたが、もう一分以上跳び続けている! 『青龍』の記録に追いつきそうだ!』
江口さんの実況の通り、綾奈たちチーム『朱雀』は、もう五十回以上ミスなく跳び続けている。タイミングが掴めずにいた久弥も、再スタートした直後は引っかかっていたけど、今も跳ぶ時にぎこちなさはあるもののちゃんと跳べている。
その理由は綾奈が跳ぶ直前に久弥の両二の腕をポンと叩いているからだ。
あれだと自分でタイミングを計らなくてもいい……綾奈が触れた瞬間に跳べばいいだけだから、そこにさえ神経を集中させていれば、あとは体力の問題だけになる。言ってみれば、綾奈が久弥のメトロノームになっているってわけだ。
他の人はミスってないし……大縄跳びの逸材ばかりが揃ってないか!?
「すごいね真人! これ、一位狙えるよね?」
「ああ!」
健太郎もテンションが上がっている。序盤、数回で引っかかって最下位確定かと思われていたのに、そこからの怒涛の追い上げだもんな。男ならこういう展開に燃えるやつがほとんどだろう。
「綾奈ちゃんすごいね! 前はこんだけ跳んだら絶対にへばってるはずなのに……」
「うん。綾奈ちゃん頑張れ!」
千佳さんのご両親も綾奈に驚きながらも声援を送っている。
綾奈は今、どんな表情をしてるんだろう? 久弥のサポートをしているから、俺たちからは背中しか見えないけど、その背中からはまだ跳べそうな感じが見て取れる。
他の、こちら側を向いて跳んでる人は、ちょっとしんどそうだけどまだ余裕がありそうだ。
『あと二十秒! みなさん頑張ってくださーい!』
あと二十秒か……なら、俺も最後に力いっぱい綾奈を応援しよう!
俺は大きく息を吸って、一瞬ピタリと止まり、そして───
「あやなー! がんばれー!!」
合唱部で鍛えている肺活量を活かし、最大限の声を出した。
『おおっと! 今かすかにですが一際大きな声援がこちらまで届きました! 力強く、そして愛のこもった声援でした! これは絶対に嬉しいでしょうし力になります! 私も……綾奈ちゃん頑張れー!』
ま、マジか! ここから江口さんがいるテントまで、直線距離で五十メートル以上は離れてるし、声援も飛び交ってBGMも流れてるのに、あそこまで届いたのは俺も予想外だった。
あと江口さん……実況が個人的な応援したらダメだろ。小さな声で『江口さん! ちゃんと実況して!』って先輩らしき人の声もマイクに拾われてるし。
でも、間違いなく綾奈にも俺の声が届いたはずだ。江口さんの言ったように、綾奈の力に、気力になるといいな。
「えへ……えへへ~♡」
「さ、西蓮寺! 気持ちはわからんでもないが今は集中力を乱さないでくれ!」
「はい。 えへへ~♡」
その後、終了十秒前で『朱雀』の縄が誰かの足に引っかかってしまい、そのまま競技終了となった。
でも、二分以上連続で飛び続けていたから、絶対『青龍』の記録にも負けてないはずだ。
回数を数えていた先生が江口さんのいるテントに一斉に走り出した。どうやら結果を伝えているようだ。
それからほどなくして江口さんの声が拡声器に乗って聞こえてきた。
『それでは! 大縄跳びの結果を発表します! 四位は『白虎』で───』
下位から発表していき、四位は『白虎』、そして三位は『玄武』。
そして気になる二位と一位の発表となった。
俺は両手を組んで祈るポーズを取り、『朱雀』の勝利を願う。
健太郎も、綾奈と千佳さんのご両親も何も言わないので、きっと俺と同じくらい『朱雀』の勝利を願っているに違いない。
そして、ついに勝利クラスが告げられる。
『一位、チーム『朱雀』! 六十三回!』
「やった! やったー!」
俺は声を大にして綾奈たちの勝利を喜んだ。
「やったね真人!」
「ああ! やっぱりすごいよ綾奈は!」
みなさんも、そして他の観覧者、生徒も、最下位を危ぶまれた『朱雀』の勝利に大いに盛り上がっている。
『二位は『青龍』! 結果は六十回でした』
かなり僅差だったんだな。それでも勝利は勝利だ。
綾奈がこっちに来たら、いっぱい労いの言葉をかけてあげないとな。
みんなで協力して勝利を掴んだ綾奈は、一緒に跳んだ人たちと喜びあい、そのあと、俺に満面の笑みとピースサインを見せてくれた。
俺もそれに同じように応えた。
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