第808話 久弥をサポート

「おい一年! 何やってんだ!」

 久弥君が連続で失敗したことにより、大縄を回している三年生の先輩が久弥君に苛立ちをぶつけている。

「す、すみません……!」

「もう一回行くぞ!」

 先輩が再度、縄を回しはじめて、久弥君も一回目は跳ぶことができた。

 私は久弥君に聞きたいことができたので、着地と同時に百八十度くるりと回り、久弥君と正面から向き合うかたちをとった。

「久弥、君って、タイミング、取るの、苦手?」

「そ、そうですね……。いけると思ってたのですが……あ!」

 五回目のジャンプでまた久弥君が引っかかってしまった。

 野球してるって聞いてるから、タイミングを取るのは得意かもと思ったけど、もしかしてリズム感覚がないのかな?

『『朱雀』はなかなか回数を増やすことができない! 一方のチーム『青龍』はまだ一度もミスすることなく、他のチームをどんどん引き離している! このまま『青龍』の勝利に終わるのか! それとも、他のチームが巻き返すのか!?』

 乃愛ちゃん、実況上手だなぁ……って、そんなこと思ってる場合じゃないよ!

「ああくそ! このままじゃダントツでビリだぞ!」

 先輩もさっきより苛立ってるみたい。

「久弥君はリズム取るのが苦手なんだよね?」

「そ、そうですね。昔から音楽だけは成績悪くて……」

 リズム感覚がなければ、確かに大縄跳びのような競技はちょっと不利だよね。もしかして久弥君は体力があるからこの競技に出ようとしたのかな?

 今は考えていても仕方がない。競技開始から三十秒が経過している。『青龍』はもちろん、他のチームも十回以上は跳んでいる。

 これ以上離されるわけにはいかない……だったら……!

「久弥君、後ろ向いて」

「え?」

「いいから向いて!」

「は、はい!」

 私が強く言うと、久弥君は言われた通りに後ろを向いてくれた。

「いい? 跳ぶ前に私が久弥君の両腕を叩くから、それに合わせてジャンプして」

 リズム感覚がないのなら、私が跳ぶタイミングを教えたらいい。幸い私は合唱部で、リズム感覚は常日頃から鍛えられているからかなり自信がある。

 久弥君がちゃんと飛ぶことさえできれば、彼は必ず私たちの大きな戦力になってくれる。私はそう確信している。

「もういいか西蓮寺!」

「は、はい! 大丈夫です!」

 名前も知らない先輩からいきなり呼ばれてびっくりしちゃった。というかなんでこの先輩は私のことを知ってるんだろう? 話したこともないはずなのに……。

「おい一年! 西蓮寺がここまでやってくれてるんだ! 気張れよ!」

「は、はい!」

『私が』の意味はよくわからないけど、私だってやるからには勝ちたいもん! なら私にできることはなんでもやるよ。真人以外の男の人に私から触れるのは真人に悪いかなってちょっとだけ思ったけど、久弥君は知ってる人だからいいよね。

「綾奈! 久弥! 頑張れ!」

「っ!」

「真人、先輩……」

 後ろから……確かに聞こえた。大好きな旦那様の声が!

 振り向くと、真人は声を大にしてまた私と久弥君を応援してくれていた。

 真人の声援……そして一生懸命応援してくれている姿を見て、私は今まで感じたことのないくらいの高揚感をはっきりと感じている。

 やっぱり、真人の応援は私にいっぱい力をくれる。真人の応援があれば絶対負けないって思っちゃうから不思議。

「真人にこれ以上カッコ悪いところは見せられないから、頑張ろうね久弥君!」

「は、はい! 西蓮寺先輩!」

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