第807話 照れまくり
『スタートの前に、競技の説明をします! 競技時間は三分間で、終了までに連続で跳んだ最高回数で競います。ですので何回失敗しても大丈夫! 三分間、どんどん跳び続けちゃってください!』
なるほど……この大縄跳びは一回きりの挑戦ではないんだな。となれば、そこまで失敗を恐れる必要もないってわけだ。
でも時間が進むにつれ、失敗のリスクとプレッシャーが重くのしかかってくる。体力はもちろんだけど、後半は精神の強さも必要になってくるな。
体力面は問題ない。ほぼ毎日俺と走ってるし、ゴールデンウィークに女性陣みんなでここからそう遠くない場所にある複合施設でバスケをしたらしいけど、ほとんど疲れた様子は見せなかったって聞くし。
精神面でも多分問題ないだろう。ボディーガードを始めた頃は、ちょっと脆いと感じた部分があったけど、今はそういうのもほとんど見ない。逆に俺がよく支えられてるしな。
つまり、この大縄跳びは今の綾奈にはかなりおあつらえ向きな競技となっている……ん?
俺は他のチームを見ながら『綾奈は有利だ』と考えていて、綾奈のいるチーム『朱雀』に視線を戻したんだけど……。
「ねえ真人。綾奈さんさっきからずっとこっちを……というか真人を見てるよ」
「……」
健太郎が言ったように、綾奈はじ~っと俺を、俺だけを見つめている。離れているけどその視線にこもった熱がここまで伝わってくるようだ。
多分、拡声器でめちゃくちゃ大きくなっている江口さんの声も聞こえてないんじゃないか?
「あはは! 綾奈ちゃんは本当に真人君にお熱みたいだね! 千佳が言ってたのも嘘じゃなかったってわけだ!」
千夏さんは手を叩きたながら笑っている。
というか千佳さん、自分のご両親に俺たちのこと、一体なんて言ってるんだろう?
「きっとあの子は今、真人君とくっつきたくて仕方ないはずよ」
「綾奈は本当に真人君が大好きだからな」
「……」
このおふたり……今日はやたらと俺を照れさせてきてないか? まぁ、それが俺たちの日常だし、おふたりにもイチャイチャしてるところを見られてるから何も言えないんだけどさ。
「でも、ルールを聞いてないみたいだけど大丈夫なのかな?」
「まぁ、ルールは事前に聞かされているだろうからさ。俺のお嫁さんは普段からしっかりしてるからきっと大丈夫だよ」
このルール説明は、どちらかと言えば俺たち観覧者への説明が主になっているはずで、競技内容は何日か前……もしかしたら出場競技を決める段階で知らされていてもおかしくない。ルールを知らされずにぶっつけて競技に臨むとか、バラエティ番組のノリじゃないか。
それに綾奈は普段から俺なんかよりよほどしっかりした女の子だ。
多分今は、甘えモードとポンコツモードが同時に出ちゃってるんだきっと。
「聞いた? ねえ聞いた慎也! 『俺のお嫁さん』だって!」
「うん。聞いたよ千夏」
千佳さんのご両親がなぜかテンションが上がっている。
千夏さんが慎也さんの肩をバシバシ叩いて……本当に千佳さんのお母さんなんだなぁ。
俺が千夏さんたちにテンションが上がっている理由を聞くと、「俺が綾奈を『お嫁さん』って呼んだから」だそうだ。
たまにだけど、綾奈をそう呼んでいるから気づくのに遅れたが、高校生のうちから婚約したり『お嫁さん』って呼ぶのは、かなり珍しいケースだもんな。
「うふふ、綾奈もたまにですけど真人君を『旦那様』って呼ぶんですよ。ね、真人君」
「そ、そうですね……」
いかん……また照れてしまった。
もしかして明奈さん……俺が何を言っても俺が照れる方向に話を持っていってるんじゃないだろうか? 短時間に何回も照れてしまっているから、そう疑ってしまう……。
というかまだ競技は始まらないのかな? 早く始まってくれないと、俺が照れすぎて死んでしまう。
江口さん……早くスタートしてくれ!
『それでは参りましょう! 大縄跳び……スタートです!』
俺が望んでいた言葉を江口さんが言って、グラウンド中央に立っている先生がスタートの合図のピストルを鳴らし、いよいよ大縄跳びがスタートした。
各チームの縄が大きく回され、三チームが良いスタートをきる中……チーム『朱雀』の縄だけが止まってしまった。
『おおっと! チーム『朱雀』、いきなりの失敗! ですがまだ始まったばかりなので挽回できます! いきなり追いかける形となった『朱雀』。巻き返せるか!?』
江口さんが実況する中、俺は見ていた。綾奈がジャンプするタイミングが遅かったのを。
多分、ピストルの音で我に返ったんだな。
気を取り直すように、『朱雀』の縄がまた回りだす。しかし───
『三チームが順調に回数を重ねている中、『朱雀』だけがほとんど跳べないまま縄が引っかかってしまっています! これは厳しい戦いになりそうです!』
俺は『朱雀』しか見ていないのだが、綾奈は最初失敗してからは引っかかってない。
引っかかっているのは……綾奈のすぐ後ろにいる久弥だった。
二、三回跳んでは引っかかっているんだけど、久弥だけ跳ぶタイミングがワンテンポ遅い。
まさか、久弥はタイミングを取るのが大の苦手なのか……!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます