第806話 綾奈の一つ目の競技、大縄跳び

「そういえば、千佳さんってなんの競技に出るんだ?」

 三番目の競技が終わったあとに、俺は今更な質問を健太郎にしていた。

 綾奈の出る競技は直接本人から聞いて知っていたけど、千佳さんの出る競技は聞いてなかった。聞くタイミングはいっぱいあったのに……。

「えっと……綱引きと玉入れ、そしてチーム対抗リレーだね」

「三競技も出るんだな」

「うん。千佳、本当に運動神経抜群だからね」

 健太郎の言うように、千佳さんの運動神経は俺たち仲良しグループの中でも一番だ。

 足も速いし力も強い。俺は何度か千佳さんに本気で背中を叩かれているから、そのパワーは身をもって経験している。だから綱引きでは貴重な戦力となるだろう。

 力が強いから、きっと肩も強い。玉入れでは見事な投てきを披露してくれそうだ。

「千佳さんの活躍は楽しみだな」

「うん。綾奈さんは何に出るの?」

「大縄跳びと借り物競争だな」

「大縄跳び……日頃の真人とのランニングで培った体力が活きてくるね」

「うん。綾奈がどれくらい跳び続けれるのか、楽しみだ」

 リズム感覚もピカイチだから、綾奈の足が縄に引っかかるってことはないだろうな。

『続いて第四競技、大縄跳びです!』

 拡声器から、このグラウンド全体……いや、学校全体まで届きそうな、元気いっぱいの女子の声が聞こえた。

 それと同時に、軽快な音楽も聞こえてきてきた。

 というかこの声、すっごい聞き覚えがあるけど───

『ここからはわたくし、放送部二年の江口乃愛がお届けしまーす!』

「やっぱり江口さんか!」

 俺は自然とツッコミを入れていた。

 というか江口さん……放送部だったんだ。普通に運動部に入ってそうだったけど……。

「江口さんって……確か三学期に千佳たちと一緒に風見に来てた……」

「そう。綾奈と千佳さんの友達だよ。よく覚えてたな」

 杏子姉ぇ見たさで風見に来たあの一回しか会ったことがないはずなのにな。さすが健太郎。

「千佳がイジられてたからね。それで覚えてたのかもしれない」

「あぁ、確かに」

 珍しく千佳さんがイジられてたな。千佳さんも健太郎絡みのイジりには弱いんだよな。

 俺たちが江口さんについて話していると、選手が続々と入場してきて位置についた。各チーム大縄を回す人を含めると十二人か。

 赤色のハチマキをしているチーム『朱雀』は、ちょっと離れているが俺たちがいるところの真正面の位置にいる。

 綾奈見えないかな? と思いながら見ていると、赤色のハチマキをした綾奈がひょっこりと顔をのぞかせて、俺とバッチリ目が合った。

 綾奈も俺に気づいたようで、ふにゃっと笑いながら小さく手を振ってきた。

 当然ながら俺も振り返す。

「綾奈さん、大丈夫かな?」

「問題ないよ。毎日走ってるのは伊達じゃないからな」

「本当、真人君様々よね。あの綾奈が走るのが本当に楽しいって言ってるのだから」

「綾奈、そんなこと言ってたんですか?」

 まぁ、態度からそうだろうなって思ってはいたけど。

「あぁ。真人君と一緒だからとっても楽しく走れてるって言ってるな」

「そ、そうなんですね……」

 照れてしまって右手の甲で口を隠した。

「あら、照れてるわね真人君。可愛いわぁ!」

「……!」

 綾奈といい明奈さんといい……そんなに可愛いのかな?

 俺は照れを隠すためにグラウンド中央に視線を戻す。

 あれ? 綾奈の後ろにいる男子……もしかしてあれ、久弥じゃないか! やっべ、綾奈しか見てなかったから久弥に気づかなかった。

 久弥は、多分初めてじゃない会釈を俺にしてきたので、俺は久弥に手を振って応えた。

 久弥は普段から野球で鍛えてるから、体力面は絶対の自信があるだろうな。少なくとも最初の方でへばる……なんてことはないだろう。

 他の出場者も、男女共になんだか体力に自信がありそうな面構えをしているから、これは『朱雀』が十分に勝てる競技だぞ!

 知ってる人がふたりも出てるんだ。ここは俺もしっかり応援しないとな! 綾奈は俺の応援があると確実にいつもより調子が良くなるから……『朱雀』の勝利のため、応援という形で力を貸すよ!

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