第805話 来ていた健太郎

 俺は靴を履いて健太郎の元へ走った。

「あ、あはは……おはよう真人」

 やっぱり健太郎の耳にも明奈さんたちの俺たち自慢が届いていたようで、なんともリアクションに困ったような顔をしていた。そんな表情もいちいちイケメンである。

「お、おはよう健太郎。というか、健太郎も来たんだな」

 ここにいるってことは、俺と同じ理由で……?

「うん。真人が来れるのなら僕もって、千夏さんに「健太郎君も一緒に千佳を応援しよう!」って言われて……」

「なるほどな」

 千夏さんに言われたら、なんとなく拒否権はないような気がする。あの千佳さんと拓斗さんのお母さんだからなぁ。明るく気のいい人だけど、キレたら色々とヤバそうだ。

 俺はまた綾奈と千佳さんのご両親を見る。明奈さんと千夏さんがまだ俺と健太郎の自慢話をしているようだ。決して口論にはなってなくて、「真人君はああだ」とか、「健太郎君はこうだ」と、純粋に自慢してる。

 嬉しいけど、当事者としてはやっぱり恥ずかしい。

 弘樹さんと慎也さんは止める気配はない……というか止められないんだろうな。

 健太郎も一緒みたいで、また苦笑いをしている。

 俺はいまだに健太郎を自慢している千夏さんを見て、思ったことを口にした。

「健太郎も、向こうの家族に大切にされてるんだな」

 明奈さんに負けじと千夏さんはあれだけ健太郎を自慢してるんだ。千佳さんと拓斗さんのご両親だから万が一にも健太郎を娘の彼氏には認めないって言われてなくて安心した。

 というか健太郎ほど非の打ち所のないイケメンもいないので、もし健太郎がダメならほとんどの男が千夏さんのお眼鏡にはかなわないということになるからな……。

「……そうだね。僕も嬉しいよ。でも、真人の方がずっと大事にされてると思うな」

「ひ、否定はできないな」

 綾奈のご両親にも、そして麻里姉ぇと翔太さんにもすごく大事にされてるって自覚があるからな……。むしろあれだけ言われて自覚がなかったら色々とヤバい。

「良かったね真人」

「う、うん……。あ、というか……健太郎って綾奈のご両親に会うのって……」

「去年の風見の文化祭以来だけど、ちゃんと自己紹介はしてないね」

「………あぁ」

 そういえば会ったことはあったんだった。あの時は弘樹さんと初めて会ってめっちゃ緊張したって記憶が大半を占めていたからなぁ……。

「真人、あの時は綾奈さんのお父さんと初めて会って大変だったもんね」

「まぁ、ね。なら、改めて弘樹さんたちに紹介するから、行こうぜ」

「うん」

 俺はまだ自慢合戦をしている明奈さんたちに近づき、健太郎を紹介した。

「清水健太郎です。改めて、よろしくお願いします」

「西蓮寺弘樹です。よろしく、清水君」

「西蓮寺明奈です。いつもうちの綾奈と真人君と仲良くしてくれてありがとうね」

「……!」

「真人は大切な親友で、綾奈さんも友人で、親友の奥さんですから」

 健太郎……サラッと流したけど、明奈さんは『うちの』って言ったよな!?

 え? それって綾奈だけのこと……だよな? それとも、マジで俺も含まれている……?

「あら、どうしたの真人君?」

「え!?」

「私と健太郎君をキョロキョロと見て、なにか言いたいのかしら?」

「いや……えっと……」

 逃げられないと思った俺は、さっき思ったことを明奈さんに聞いた。

「当たり前じゃないの。真人君は私たちの義息むすこなんですから」

「は、はい。ありがとう、ございます」

 照れながらもお礼を言った。嬉しいのは本当だから。

「やっぱり、真人の方が大切にされてるね」

 俺は色んな意味で否定できなかった。

 それからしばらくして、BGMが流れるのと同時に高崎の生徒が入場ゲートから出てきて、トラックを一周して中央に集まり開会式、そして三年生と思われる男女ふたりによる選手宣誓が行われて、いよいよ高崎高校の体育祭がスタートした。

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