第798話 一緒に綾奈の家へ

 お昼。俺と綾奈は綾奈の家にやって来た。

 母の日の今日、感謝を伝えないといけない人はもうひとりいる。もちろん明奈さんだ。

 俺の手には紙袋があり、この中には明奈さんへの贈り物が入っている。

 ちなみに隣で手を繋いでいる綾奈は、お泊まりの際に持ってきた荷物を持っている。

 夕飯までうちで食べるけど、荷物だけは先に持って帰り、夜は身軽に帰るためだ。

「明奈さん、喜んでくれるかな?」

「大丈夫だよ。真人、すっごく真剣に選んでたんだもん。絶対喜んでくれるよ」

 この贈り物を買ったのは金曜日の放課後だ。

 八雲さんと久弥と別れた俺たちは駅から近いスーパーに向かい、かなり迷った末にこれを買った。

 綾奈からは助言は貰わず、自分のチョイスだ。

 入浴剤を選ぼうとしたら綾奈に、『それだとお母さんじゃなくて私たちへの贈り物になっちゃうよ』と言われ、この入っているものにした。

 あくまで母の日の……明奈さんに贈る物を買いに来たのだから、明奈さんだけが使ってくれる物を選ばないといけない……までは言わなくても、ちょっと母の日感が薄れてしまうもんな。

 それから俺は、綾奈が明奈さんに何を贈るのか気になったので聞くことにした。

 なんか別の日に既に買っていたようだけど……。

「綾奈は明奈さんに何を贈るの?」

「私はハーバリウムを選んだんだよ」

「ハーバリウム?」

 なんか聞いたことがあるけど……なんだったっけ?

「ほら、ガラス瓶の中に液体とお花が入ったものだよ」

「ああ!」

 見たことがあるな! 百円ショップなんかでも売られているアレだ。

「綾奈が選んだものだから、きっとすごく綺麗なものなんだろうな」

「そ、そうかな。えへへ……ありがとう真人」

 綾奈はこの週末、うちに泊まっているからまだ明奈さんにプレゼントできていない。だから今から俺たちが一緒にプレゼントを渡すことになるんだけど、明奈さんにプレゼントをしたことがないからやっぱりちょっと緊張するな。

 誰かにプレゼントを渡す行為自体緊張するものなんだけど、それが大切な人……義理の母親へのプレゼントなら尚更だ。

 綾奈のご家族は翔太さんを含めて俺に甘い。その中でも明奈さんと麻里姉ぇは特に俺に甘い。

 そんな甘さにつけこむような適当なプレゼントは選んでないが、本心で喜んでくれるのかは渡してみないとわからないから、やっぱり緊張はする。

 ほどなくして綾奈の家に到着した。

「あれ? お父さんの車がない」

「本当だ」

 いつも停まっている場所に弘樹さんの車がない。ということは弘樹さんはどこかへ出かけているんだな。

 弘樹さんにもご挨拶したかったけど、留守なら仕方がない。

「明奈さんはいるだろうから、早くプレゼントを渡そう」

「うん」

 俺たちは玄関の扉の前に立ち、綾奈がドアハンドルを持って扉を引い───

「開かない……」

「え?」

 ということは、弘樹さんと明奈さん……ご夫婦でどこかへ出かけているということか。

「もしかして、母の日だから弘樹さんと明奈さんはデートしてるんじゃない?」

「そうかもしれないね」

 あのおふたりも本当に仲が良いからな。日頃の感謝を込めて特別な場所へ行っているのかもしれない。

 しかしそれだと、おふたりがいつ帰ってくるかわからないな。

「どうしようか?」

「真人さえ良ければ、帰るまで家で待ってようよ」

「そうだね」

 いいの?と言いそうになったが、遠慮した……どこか引いたような発言は綾奈のむぅ案件になりそうだったし、明奈さんや弘樹さんが聞いても『遠慮するな』と言いそうだったからやめた。

 綾奈は一度荷物から手を離し、鍵を取り出して玄関を開けた。

 誰もいないが、一応「ただいま」と言ってから入り、綾奈とリビングでおしゃべりしたりイチャイチャしたりしながら明奈さんたちの帰りを待った。

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