第797話 母の日の朝食は夫婦で作る
五月十四日の日曜日。
ランニングを終えた俺たち夫婦は、汗の処理をしてからふたりで台所に立っていた。
「悪いわねふたりとも。朝ごはん作ってもらうなんて」
そう言ったのは母さんで、母さんはリビングのソファに座って俺たちを見ていた。
「いつも作ってもらってるから、今日くらいはね」
「そうですよ良子さん。今日は母の日なんですから。むしろ朝食以外も作りますよ」
綾奈の言ったように、今日は母の日だ。
日頃から俺たちの身の回りのお世話をしてくれている母さんにささやかな恩返しをしたいと思い、俺たちがキッチンに立ったわけだ。
中三までの母の日はマジで何もしなかった。
去年は定番のカーネーションを贈りはしたけど、言ってしまえばそれだけ。
だから今年は教えてもらった料理のスキルを駆使して朝食を作るからと事前に母さんには伝えていた。
綾奈にもそのことを伝えると、「私も一緒に作る!」と言い出し、特に反対するつもりもなかったので、場所は違えど、美奈の誕生日パーティーぶりに夫婦で料理をすることになった。
「前から綾奈ちゃんの料理は気になっていたのよ。真人がいっつも美味しい美味しいって言うものだから」
「実際マジで美味いからね」
美味いし俺の味の好みドンピシャなんだよね。
じゃなければ卵焼き一個で綾奈の料理にまで惚れたりしない。
「それと綾奈ちゃんの気持ちは嬉しいけど、テストが近いのだから勉強に集中して欲しいから。またの機会にお願いするわね」
今は中間テストに向けて追い込みをかけないといけないのもまた事実。料理に時間を割いていては、もしかしたらテストの点も落ちてしまうかもしれないからな。母さんの言うことはもっともだ。
「わかりました。良子さんや雄一さんのお口に合えばいいのですが……」
料理上手の綾奈も、初めて義両親に手料理を振る舞うからちょっと緊張して自信なさげだ。
「もっと自信持っていいよ綾奈。俺個人としては、母さんよりも綾奈の作ったものの方が好きだし」
「……えへへ♡」
それに作るのは目玉焼きとお味噌汁、そして野菜の盛り合わせだ。
目玉焼きは焦げないように見といたらいいだけだし、野菜は文字通り数種類の野菜を盛り合わせるだけ。
味噌汁だけ気をつければいい。
「そうはっきり言わせるのだから楽しみなのよね」
綾奈に自信を持たせるために言ったけど、逆に母さんのハードルを上げてしまう結果になってしまったが、綾奈なら大丈夫だな。
「よし、父さんと美奈が起きてくる前に済ませよう」
「う、うん!」
こうして始まった夫婦揃っての朝食作り。
俺は冷蔵庫から野菜を取り出し、お皿にそれらを乗せていく。誰がしても味なんて変わらないが、適当にやっていると見た目が悲惨なことになりかねないからちゃんと考えながらやっていく。
チラッと綾奈を見ると、味噌汁を作っているみたいで豆腐を切り終えていた。
数分後、人数分の野菜を盛り合わせた俺は、綾奈の隣のコンロを使い、フライパンを温める。
「えへへ」
鍋に豆腐や切った長ネギを入れていた綾奈と目が合い、俺たちは笑い合った。
こうやってふたりで並んで料理するの……四月にも思ったけどやっぱりすごく楽しいな。
フライパンがだいぶ温まってきたので、俺は油を投入。
綾奈は味噌を入れていた。
目玉焼きは俺が作ってもいいけど……母さんも綾奈の料理を楽しみにしているから、交代した方がいいかな。
「綾奈。味噌汁は俺が見てるから、目玉焼きをお願いしていい?」
「あ……うん。わかったよ真人」
俺の考えていることがわかった綾奈は、何も言わずに目玉焼き作りを引き継いでくれた。
場所を交換する際、綾奈の頭を一瞬撫でたら、また綾奈から「えへへ~」と嬉しそうな声が聞こえた。
こうして完成した夫婦共同で作った朝食(半分以上綾奈が作ったけど)は、母さんはもちろん、父さんと美奈にも大絶賛だった。
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