第776話 視線を集める集団
夕方、俺は修斗と一緒にドゥー・ボヌールを出て、駅にやってきた。
ケーキを食べている途中、綾奈から【もうすぐ帰るね】とメッセージがきて、頃合を見てここにきたのだ。
ちなみに構内には入ってなくて、近くで待っている。というのも、日曜日の夕方は利用客が多くて、構内だと多少なり混雑するから、それを避けてのことだ。
「人がいっぱい出てきますね」
「だな。というか修斗、自転車を駐輪場に置かないのか?」
修斗は自転車を押してここにいる。近くに駐輪場があるからそこに停めたらいいのに……。
「そんなに長居しないと思うから大丈夫かなって」
「まぁ、修斗がいいならいいけど……お?」
電車が到着するのが見えた。もしかしたら綾奈たちはアレに乗ってるのかもしれないな。
「アレですかね?」
「多分」
電車が到着して一分と少し……あの電車の乗客と思しき人たちが続々と駅から出てくるが、後から出てくるにつれ、その人たちが後ろをチラチラと見ながら出てくる。男性は若い人はほぼ全員で、女性もちらほらといる。
「後ろに何かあるんですかね?」
修斗も乗客の不思議な行動を疑問に思ったらしく、俺にそんな質問をしてきたんだけど……。
「……なんか、わかった気がする」
多分……いや、確実に俺たちが待っている人が関係しているだろうな。
そしてそこからさらに待つこと一分ほどで、みんなの注目を浴びている集団が見えた。
「まぁ、そうだろうな」
予想していた通り、やっぱり綾奈たちだ。周りの人もみんな綾奈たちをチラチラと見ている。
だけど無理もない。あの集団が目に入って気にならない人なんてごく少数だろう。
高崎高校一の美少女の綾奈、風見高校一の美少女の杏子姉ぇ、俺の母校の中学一の美少女の茉子、そしてその三人にまったくひけを取らないふたりの美少女……千佳さんと美奈。目立たない方がおかしい。
というか杏子姉ぇ……変装してないし! 目立つ要因の半分はそこにあるだろうな。
「す、すげぇ……美少女の集団が……」
「あれは見るなと言う方が無理な話だな」
俺も、みんなと友達……それに家族だけど、あんなハイレベルな美少女五人、絶対に見てしまうって。
だんだんとこちらに近づいて、およそ十メートルくらいの距離になった時、綾奈が俺たちに気がついて走ってきた。めっちゃ嬉しそうな笑顔だ。
このままいつものように抱きついてくるかと思ったんだけど、今回は手を繋ぐだけにとどまった。
「ただいま真人」
「うん。おかえり綾奈」
手を繋いでもにっこにこな笑顔を俺に見せてくる綾奈。相当ご機嫌な様子でめちゃくちゃ可愛い。俺もつい気持ちが高まって笑顔になる。
ここで綾奈が修斗の方を見た。
「修斗君も来てくれてありがとう」
「……え?」
綾奈に名前を呼ばれた直後、修斗は硬直していた。そして頬がみるみる赤くなっている。
「どうした修斗?」
「いや……あの、綾奈先輩……俺を、名前で……」
あぁ、そういうことか。確かに綾奈が修斗と面と向かって名前を呼ぶのはこれが初めてか。今までずっと苗字だったから無理もないな。
「お兄さんの久弥君ともお知り合いになったから、ふたりとも苗字で呼ぶと紛らわしいかなって……ダメだったかな?」
「い、いえ! その……すごく、嬉しい、です」
修斗の声にデクレッシェンドがかかってすごく尻すぼみに。
これも綾奈なりの信頼の証だな。
「しゅーくん! 久しぶり!」
「お兄ちゃん……なんで横水までいるの?」
綾奈に追いついた美奈たちも合流。合流直後、杏子姉ぇは修斗に笑顔で手を振っているが美奈は……修斗が見えてからすごく嫌そうな顔をしていて、茉子は苦笑いをしている。
それにしても、今日はみんな動きやすそうな服装だな。普段ガーリーで可愛らしい服を着ている茉子も珍しくパンツスタイルだし。
「お、お久しぶりです。杏子先輩」
「みんなおかえり。美奈、お前嫌な顔するなよ」
「た、ただいま。真人お兄ちゃん」
「うん。おかえり茉子」
「だって、こいつがいるのなんて聞いてないし!」
美奈が修斗をビシッと指さした。
「おまっ、別にいいだろ!」
「昼から修斗といて、みんなが帰ってくるから一緒に出迎えるよう提案したのは俺だ。というかお前、友達だろ?」
「そ、そうなんだけどさ……」
修斗のことは友達と思っていながらも、やっぱりまだ心のどこかでは修斗を認めていない部分があるのか?
「へぇ、この男子が真人を『おにーさん』って言ってる子?」
修斗を上から下まで笑みをうがべながら興味深そうに観察している千佳さん。そういやそのふたりは初対面だったな。
「うん。修斗っていうんだ。修斗、この人は───」
「知ってます。宮原千佳先輩……ですよね?」
あ、知ってたんだ。千佳さん目立つからなぁ。
「うん。宮原千佳だよ。よろしく修斗」
「よ、よろしくお願い、します。……千佳先輩」
いきなり名前呼びだとそりゃ驚くよな。千佳さん真面目だけど、ギャル特有(?)の距離の詰め方はさすがだ。
「お腹すいたし、早くかえろーよー」
杏子姉ぇが催促しだした。
もうすぐ夕飯時だし、俺たちはドゥー・ボヌールでケーキ食べたから大丈夫だけど、綾奈たちは多分お昼から今まで食べてないだろうからな。
「わかった。じゃあ行こう綾奈。みんな」
「うん!」
俺たち七人はそれぞれの家に向かって移動を開始した。
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