第763話 最近の恋愛事情と理想のカップル像
「本当ね~。ところでふたりは告白されたりしないの~?」
夫婦のデュエットが二番に突入した頃、雛が話題を変えた。
そして茉子と香織はまたしても驚く。
「そ、そうですね。告白は……されます」
「私も……うん。ないといったら嘘になりますね」
茉子は中学で学校一の美少女と称され、香織も学年ではトップクラスに入るほどの美少女だ。性格も、茉子は穏やかで大人しく、香織は元々は物静かであまり自分からは発言しないタイプだったが、真人とどうにかして仲良くなりたいという思いから、今の明るい性格になり、今ではクラスで他の女子たちに囲まれている。
そんなふたりを、多感な時期の男子が放っておくはずもなく、どうにかしてこの美少女とお付き合いをしたいと願い、告白する者が後を絶たない。
「どれくらい?」
「わ、私は……週に一回か、二回、くらい……です」
「私はマコちゃんほど多くはないですけど、まぁぼちぼち」
「でも、全て断ってるのよね~?」
「そうですね……。というか雛さんはどうなんですか?」
「そ、そうです! 雛さんも、告白されてますよね?」
「そうね~、されてるわ~」
雛は特に隠すことも濁すこともなく言った。
雛も、風見高校では学校一の美少女と呼ばれた美貌の持ち主で、抜群のプロポーションを持ち、性格も穏やかでおっとりしているが、しっかりしているお姉さんでもある。
そんな雛を男子が目をつけないわけもなく、専門学校入学してすぐに、彼女のいない男子から言い寄られていた。
「やっぱり」
「雛さんも、全部断ってるんですよね?」
「そうね~。というか、その告白もちゃんとしたものじゃなくって、『俺と付き合ってみない?』って、軽くて、こっちに判断を委ねる告白ばかりだから、ちょっと困ってるのよね~」
「うわぁ……」
「そ、それは……」
香織と茉子はちょっと引いていた。
「告白って、自分と付き合ってほしいから、その気持ちを本気で相手にぶつける行為のはずなのに、面と向かって「好き」と言わない人ばかり……とまではいかないけど、とにかく気持ちがこもってない気がして、どうにも心に響かないし、信用もできないのよね~」
雛は、高校在学中ももちろん色んな男子から告白を受けていた。それはさっき言ったような軽いノリの告白もあったが、真摯に気持ちをぶつけてくれた相手もいた。
だが雛はその告白を全て断ってきた。それは彼女自身、恋を知らなかったのもあるが、誰かと付き合いたいと思ったことがなかったからだ。
真人に恋をした、あの瞬間までは……。
「失礼だとわかってるんだけど、どうしても比べちゃうのよね~。それに、去年の高崎高校の文化祭で、真人君のあのスピーチ……告白を聞いているから、無意識にああいったのを望んじゃってるのかもしれないわ~」
昨年の高崎高校の文化祭で開かれたイベント、大告白祭。
真人は校舎の屋上から、綾奈の名前を出さずに、マイクを通して綾奈への想いを全て伝えた。
実際にあの告白は記憶に残るものとなり、真人を知っていた人はもちろん、その時にはまだ真人と面識がなかった江口乃愛、楠せとか、金子舞依も、あの告白と真人の名前を覚えていた。
「「……」」
「マコちゃんには辛い記憶かもしれないけど、ああいう告白……やっぱり憧れなんじゃないかしら~?」
「そう、ですね。あの日の夜は大号泣するくらい辛かったですが、でも雛さんの言う通り、あんな告白をされてみたいって気持ちは、あります」
「私はあの文化祭には行かなかったんですが、凄かったんですよね?」
「凄かったわ~。人見知りって言ってた真人君が、何百人もいる中で堂々と告白していたもの~。出会って数十分だった私も、凄いって思っちゃうくらいに」
結果として、あの大告白祭でのスピーチが、雛の告白への理想を高めるものとなってしまった。雛に好意を寄せる男子からしたらものすごく酷な話である。
「だからというわけではないけど、私もしてみたいのよね~」
「何をですか?」
「真人君と綾奈ちゃんのような、本気で、それでいて自然と相手を想いやれるような恋愛を」
雛は真人と綾奈を見る。それにつられるように、真 茉子と香織もふたりを見た。
曲は最後のサビで、夫婦は互いを見て笑顔で熱唱している。
ちなみに真人はモニターに表示されている歌詞をチラチラと見ているが、綾奈はずっと真人を見ている。それでも歌詞を間違えないことから、綾奈が本当にスタアクが……アイドルが……そして真人が好きだというのが伺い知れる。
「千佳ちゃんも言っていたけど、私もあのふたりが理想のカップルの形よ~」
健太郎と雛にしか言っていなかった千佳の秘密を、サラッと言ってしまった雛。当然千佳の耳には届いていない。
「そうですね。私もいつか、あんな恋愛してみたいなー」
「わ、私もです」
「なら頑張って、理想の人を見つけましょうね~」
このタイミングで曲が終わり、三人は夫婦に拍手を送った。
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