第758話 太らない体質の大食らいの茜

 カラオケ店に到着して受付に向かった俺たち。

 十一人もいるから、大部屋じゃないと全員は入れないんだけど、ゴールデンウィークだから絶対に空いてないだろうと思いながら、ダメ元で受付のお姉さんに聞いてみたら、なんと奇跡的に大部屋を利用していたグループが出た直後だったらしく、大部屋を取ることに成功した。

「やったね真人!」

「うん。ラッキーだよ」

 日頃の行いかな……なんて冗談交じりに思いながら、俺の名前で受付を済ませる。変装しているからか、杏子姉ぇには気づいていないっぽかった。

 ジュースを持って大部屋に入る。部屋の壁は白。中央にはこれまた白い長テーブルがあり、曲を入れる機械とメニュー表が置かれている。そしてソファは黒。部屋の奥に大きなテレビが壁にかけられており、天井にはミラーボールがある。

 広さからして、俺たち全員が余裕で入るスペースがある。

「あとからみんな来るから、奥につめるか」

「そうだな」

 一哉の提案に全員が賛成し、各カップルが隣同士で奥に座る。俺たち夫婦の隣には美奈と杏子姉ぇ、そして正面に一哉と茜だ。……美奈と杏子姉ぇをカップルといってはダメな気がするけど、まぁそれはそれだ。

 ソファに座った俺たち。杏子姉ぇがすぐにメニュー表を取ってそれを開いた。

「ひーちゃん先輩たちが来るまで時間あるし、とりあえずパーティーセットでも注文しよっか?」

「さんせーい! 私お腹空いちゃった」

 大食いの茜が誰よりも早く杏子姉ぇの提案に一票を投じた。

「茜さん……お昼食べてないのかな?」

「食べてきてるとは思うけど……まぁ、茜だし」

「う、うん……」

「ちょっとそこの夫婦! 聞こえてるよ!」

 小さい声で話してたつもりだったけど、茜に聞こえていたみたいだ。耳ざといな。

「それだけ食べて、なんでそんなに細いんだよ?」

 俺たちの中で一番の大食らいの茜だけど、一番細いのも茜だ。役者の杏子姉ぇ、モデル体型の千佳さん、そして三学期からほぼ毎日俺と一緒にランニングや自主的に筋トレをしている綾奈よりも細い。

「私は部活でみんなより多く動いてるし、元々太りにくい体質なんだよね」

「その体質がマジで羨ましいな! 俺もそうだったら太ってなかったしダイエットも必要なかったのに……」

 ダイエットはマジで辛かった。一体何度辞めようと思ったか……。

「頑張って痩せたんだからいいじゃん。そのおかげでモテてるし」

「返答に困ること言わないでくれる!?」

 そして実際に何人から告白されているから否定もしづらい。

 おそるおそる隣の綾奈を見ると、表情こそ変わらずだったが、俺と繋いでいる方の手の力を強めてきた。なんとなく、『絶対に逃がさない』という意思表示のように感じる。

 ちょっと嬉しみを感じていると、茜の隣にいる一哉がこんなことを言ってきた。

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