第757話 手を繋ぐ3組

 先にカラオケ店に行くチームの俺たち六人は電車に乗り、俺たちの地元駅で降り、そのままアーケードに向かっていた。

 そして今は二人一組で手を繋いで歩いていた。言うまでもなく俺と綾奈、一哉と茜、そして美奈と杏子姉ぇだ。

 なんで美奈と杏子姉ぇも手を繋いでいるかというと……。

「ねぇ、杏子お姉ちゃん」

「ん? なにみっちゃん?」

「なんで私たちまで手を繋いでるの?」

「だって四人は手を繋いでるのに、私たちだけ繋がないのは変じゃん」

 とまぁ、杏子姉ぇがよくわからない理由で美奈と手を繋いでいた。

 後ろから聞こえてくるふたりの会話に、内心で苦笑いをしながら耳を傾けている俺。

 隣の綾奈は「杏子さんらしいね」と言ってくすくす笑っている。可愛い!

「別に変じゃないでしょ……」

「みっちゃんは私と手を繋ぐのいや?」

「い、嫌じゃない───」

「あ! しゅーくんがよかった!?」

「最後まで言わせてよ! というかアイツとは絶対イヤッ!」

 話題の方向転換がすごい。まぁ、これも杏子姉ぇらしいと言えばらしいか。

 春休みにようやく普通の友達となった美奈と修斗だけど、その後はちゃんと仲良くしてるのかな? 聞いてないし美奈も話してくれないからわからん。茉子に聞いてみるか?

「ねえねえキョーちゃん。しゅーくんって?」

 ここで一番前を行く元祖イチャイチャカップルのひとり、茜が会話に参加した。後ろを向いて杏子姉ぇを見ている。

「みっちゃんの同級生の男の子で、名前がえっと……」

「横水修斗君だよ茜さん」

 綾奈がアシストした。

 杏子姉ぇも普段名前で呼ばないし、そこまで話したこともないから、咄嗟に名前が出てこないのも仕方ないのかな?

「ありがとう綾奈ちゃん。でも、あれ? その名前、どこかで……」

「あれじゃないか? 真人を神様扱いしている子たちが言っていた、あの中学一のイケメンってヤツだろ?」

「ちょっと待って一哉君! お兄ちゃんが神様扱いされてるってなんなの!?」

 美奈が驚いて叫んだ。

 そういや美奈に一宮さんたちの話はしたことがなかったな。というか自分からは話せないけど。

 自分から妹に、『俺、後輩から真人神様って呼ばれてるんだ』って言える猛者はいないだろう。

「その子たちはしゅーくんのファンで、しゅーくんが尊敬してるマサを『真人神様』って呼んでるんだよ」

 杏子姉ぇの説明をすごい真顔で聞いている美奈。あいつのあんな顔、全然見ないぞ。

 そして、説明を聞いた美奈は、ゆっくりと俺を見た。

「な、なんだよ……?」

「いや……その人たち、大丈夫なのかなって」

「お前失礼だな! 相手は先輩だぞ!?」

 もしもここに一宮さんたちがいたら、美奈の一言を聞いて、ヒートアップしてまた俺のことについて小っ恥ずかしいプレゼンが始まるところだった。

「先輩だとしても、お兄ちゃんが神様って……ねぇ?」

 確かに自分の家族が神様扱いされている話を聞かされて複雑な気持ちにならない人はいない。リアクションに困るのもわかる。

 というかいつの間にか話がめちゃくちゃ逸れてしまったけど、そもそも最初は美奈と修斗の仲について話していたところだったんだ。

 一哉が余計なことを言ったからつい忘れそうになってしまったけど、兄としてはやっぱり気になるから逃がさないぞ。

「その話はもういいだろ? 美奈お前、修斗とは仲良くやってんのか?」

「教室でたまにしゃべるくらいだよ。アイツ人気があるから、男子からも女子からも好かれてるし」

「まぁ、修斗イケメンだからな」

 きっと友達も大勢いて、かなりモテるんだろうな。

「お兄ちゃんがアイツを変えちゃったから、前よりさらに人気が出ちゃってるよ」

「マジか……」

 中三の頃の担任の先生も言ってたけど、以前の修斗はお世辞にも性格がいいとは言えなかったんだよな。それが俺と出会って、あの初詣の一件で心を入れ替えて真面目になり、元々あった人気がさらに上がってしまったというのか……?

「以前にも増してモテてるっぽいけど、なんか全部断ってるっぽいね」

「なんでまた?」

「さあ? 部活も最後の総体が近いし、受験も控えてるからじゃない?」

 なんか興味なさげだな。

 いくら友達と言えど、修斗にそこまで興味や関心がないから知ろうと思ってないんだろうな。

 そろそろ総体の地区予選があるし、受験もあるから、恋愛まで手が回らないんだろうな。

 ま、機会があればそこら辺のことも本人に聞いてみようかな。

 それからは他愛のない話を六人でしながら歩いていたら、あっという間にカラオケ店に到着した。

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