第756話 心待ちにしていた再会
「みんな久しぶりね~。わざわざ来てくれてありがとう~」
久しぶりに聞く雛先輩のおっとりボイス……癒されるな。
「雛さん!」
雛先輩の名を呼び、駆け寄ったのは茉子だ。
茉子はそのまま雛先輩に抱きつき、茉子の頭が雛先輩の大きな果実に埋まった。
「ちかっちも行かなくていいの?」
「い、行きませんって!」
杏子姉ぇのいつものイジりがまた始まったと思ったけど……行かないんだ。
千佳さんも今の茉子と同じくらい、雛先輩と再会して嬉しいはずだ。未来の義理のお姉さんになる人だから、嬉しくないわけがない。
「ちぃちゃん照れなくてもいいのに」
「あ、綾奈……!」
千佳さんの顔が真っ赤だ。誰が見ても照れているのがわかる。
綾奈が千佳さんをイジるのもなんか珍しいな。
お嫁さんとその親友のやり取りを見て目を細め、それから雛先輩に視線を戻すと、茉子だけでなく香織さんも雛先輩のそばにいた。
「雛さん。会いたかったです」
「えぇ、私もよ香織ちゃん~」
久しぶりに見たこの親友のスリーショット。やっぱりいいな。
三月末、この駅で三人で抱きしめ合っていた光景を思い出し、尊い気持ちになりながら三人を見ていると、雛先輩と目があった。
綾奈と目が合うのとは違う意味でドキッとする。
俺と目が合った雛先輩は、茉子と香織さんを離し、ゆっくりと笑顔で俺に近づいてくる。
俺は雛先輩を見たり、目を泳がせたりして落ち着かない。
隣の綾奈はめっちゃ落ち着かない様子でソワソワ、ハラハラしている。
まぁ、見送りの時のアレを思い出せば、綾奈の心配はごもっともだ。
だけど、さすがにもう雛先輩は俺にハグしたりはしないだろうし、恋心もないだろう。
それどころか、向こうで彼氏ができていてもなんら不思議じゃない。
そんなことを考えていると、綾奈が俺の腕に抱きついてきた。口にはできないけど、そこまで警戒しなくても……。
内心でちょっと苦笑いをしていると、雛先輩が目の前にやって来た。
「真人君。お久しぶりね~」
「は、はい。雛先輩。お久しぶりです。そして、お帰りなさい」
「うふふ。ただいま~」
雛先輩はにっこりと笑顔を見せた。健太郎のお姉さんだけあって、やっぱりめちゃくちゃ美人だ。
「……真人?」
「っ!」
隣の綾奈さんが小さく、それでいて低い声で呼んで、思わずドキリとする。
「いや! 他の人も思う、ごく一般的な感想を思っただけだからね!」
「……うん」
どうやら信じてくれたようで、俺の腕に抱きつく力を少し緩めた。
それにしても、俺のお嫁さん……鋭すぎない? 俺のそういう感情を読み取る高性能センサーでも搭載してるのか?
高性能といっても、手当り次第すぎる気がするけど。
「綾奈ちゃんもお久しぶりね~」
「はい、雛さん。お久しぶりです」
「その、改めてになるけど、真人君に抱きついてしまったこと、ごめんなさい」
「「!」」
雛先輩がいきなり頭を下げたことに、俺も綾奈も驚いた。
再会の挨拶をしてすぐに謝罪……俺に抱きつく前に事前に謝っていたけど、あれは言ってしまえば勢いで謝った感じだったから、ちゃんとした謝罪をしないで行ってしまったことは、雛先輩の心残りだったのかもしれない。
「い、いえ、そんな……」
「もうあんなことはしないから、許して」
「た、確かにあの時、いきなり真人に抱きついた雛さんにびっくりしましたし、その……ちょっとヤキモチ焼いちゃいましたけど、もう気にしてませんから」
「……ありがとう。綾奈ちゃん」
雛先輩は綾奈に深々と頭を下げた。これにはみんな……あの杏子姉ぇも口を挟めずにいた……が、雛先輩が頭を上げてからちょっとして、杏子姉ぇが空気を変えるために言った。
「はい! 謝罪タイムはこれでしゅーりょー! ひーちゃん先輩。どこか行きたい場所ってありますか?」
今日ここにみんなで集まったのは、全員でどこかに遊びに行くためだ。
逆に言えば、このゴールデンウィーク中で、今日しかみんなで集まれる日はない。部活の人もいれば、遊びの予定が入ってる人もいるから。
「ん~……それじゃあ、カラオケに行きたいわ~」
少し悩んでから雛先輩が出した答えは、カラオケだった。
雛先輩。カラオケ好きなのかな?
「了解です! じゃあ先にお店に行って部屋を確保する人と、ひーちゃん先輩が家に荷物を置きに行くので一緒に行きたい人で別れよー!」
さすがにそのキャリーケースを持ったままカラオケには行けないし、ゴールデンウィークでカラオケを利用する人も多いから、早く行って部屋をおさえておかないといけない。杏子姉ぇナイス判断だ。
挙手制で二手に別れるメンバーを決め、その結果、先にカラオケ店に行くのが、俺と綾奈、一哉と茜と美奈と杏子姉ぇになり、雛先輩について行くのが、茉子と香織さん、健太郎と千佳さんになった。
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