2年生編第2章 高崎高校の体育祭と風見高校の球技大会

第755話 雛の帰省

 五月三日水曜日……大型連休、ゴールデンウィークの初日。

 そのお昼過ぎ、俺は綾奈と、そして友達みんなで駅に来ていた。

 土日を合わせれば五連休となるが、遠出をするために駅に集まったわけではない。俺と綾奈、一哉と茜と千佳さん、それに健太郎は部活があるし。

 そう、俺の勧誘の末、健太郎は合唱部に入部してくれた。もちろん俺たちと同じ臨時としてだけど。

 それでも俺と一哉は嬉しいし、学校一のイケメンが入部したことにより、女子のやる気もめちゃくちゃ上がり、風見高校合唱部の士気はかなり上がっている。

 健太郎自身も歌が上手いし、今年はマジで全国狙えるのではと期待が膨らむ。

 話が逸れてしまったけど、今日、この駅に集まったのは、三月末に雛先輩を見送りに来たメンバー全員だ。

 そのメンバー総出で、一ヶ月とちょっと振りに帰省する雛先輩を出迎えに来たのだ。

 今は待合所みたいな場所にみんなでいる。椅子に座っている人や、立って待っている人もいる中、俺は立って待っているのだが、一人めちゃくちゃそわそわしている人がいる。

「雛さん……まだかな?」

 茉子だ。さっきからずっと同じ所を行ったり来たりして落ち着きがない。

「マコちゃん。気持ちはわかるけど落ち着きなよ」

 そう言って、後ろから茉子の両肩に手を置いたのは千佳さんだ。

「千佳さん……ごめんなさい」

「ううん。あたしも別に悪いとは思ってないよ」

「ちかっちは落ち着いてるよね。なんか意外」

 そう言ったのは杏子姉ぇだ。実は俺もそれは思っていた。

 そして言われてしまった千佳さんは、杏子姉ぇにジト目を向けた。

「……どういう意味ですか? 杏子センパイ」

「だって……ねぇ、あかねっち」

「うん。私も、千佳ちゃんは未来のお義姉ちゃんとの再会に、きっと胸躍らせてると思ってたから」

「茜センパイまで何言ってんの!? あたしは別に───」

「でもちぃちゃん。昨日電話した時、今のマコちゃんみたいに落ち着かなかったよね」

 ちょっと慌てて高三ふたりの予想を否定しようとした千佳さんだけど、ここでまさかの綾奈からのタレコミがあった。

 親友に暴露されてしまい、千佳さんの顔が一瞬で赤くなった。

「あ、綾奈……!」

「どんな顔して……どんな格好で会ったらいいのかって、珍しいって思ったけど、とってもかわいかった」

「~~~~~!」

 千佳さんの顔がさらに赤みを帯びた。

 こういう情報は、いつも千佳さんが言っちゃう側だからなぁ……。

 さっきみたいに茜や杏子姉ぇからイジられる場面はこれまで何度かあったけど、綾奈がそっちの立場に回るのはなかなか珍しい。

「千佳……可愛い」

 健太郎は隣にいる自分の彼女を見て微笑んでいる。偶然にもそのイケメンスマイルを見た、近くを通っていた女の人が足を止めてしまうほどの破壊力だ。

「け、健太郎まで!」

 健太郎はにっこりと微笑んだ。

 そんな仲良しカップルの微笑ましい様子を見て、雛先輩のもうひとりの親友の香織さんに視線を移すと、香織さんは意外と落ち着いて座っていた。

「香織さん。冷静ですね」

 美奈が言った。

「私も実はすごく楽しみで内心は落ち着かないよ。でも、今のマコちゃんを見てると……そして昨日の千佳ちゃんの話を聞いたら逆にちょっと落ち着いた」

「あぁ……確かに」

 美奈は茉子と千佳さんを見た。

 香織さんは所謂アレだ。自分より慌てている人を見たら逆に冷静になれたってやつだな。

 俺も先月、アイドルフェスで俺と綾奈を見てめっちゃ驚いていた泉池を見て冷静になれたし。

「み、みぃちゃん……!」

「そ、そんな生暖かい目で見ないでよ!」

 茉子と千佳さん以外のみんなは声をだして笑った。

 みんなで集まると賑やかでいいな。

「おっ、そろそろじゃないか?」

 一哉の一言に、みんなは時間を確認する。

 俺も、この駅構内に設置してある時計を見ると、雛先輩が乗っているであろう電車の到着予定時刻まであと二分となっていた。

 椅子に座っていた面々はそれぞれ立ち上がった、改札の近くまで歩き出した。

「俺たちも行こう。綾奈」

「うん! 真人」

 繋いでいた手はそのままに、俺たち夫婦も移動した。


 場所を移動して一分半ほどで電車が到着した。

 ドアが開いて乗客が次々と降りてくる。

 帰省した人たちなのか、なかなかに多い。

 そうして探すこと十数秒。俺たちは探していた雛先輩を見つけることができた。

 雛先輩も俺たちを見つけたようで、キャリーケースを引きながら、笑顔で俺たちに手を振っていた。

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