第752話 綾奈の真の実力
「……ふっ!」
俺は綾奈陣地のゴールを見ながらサーブを放った。一直線にゴールを狙う打球……球じゃないから……
ちょっとフェイントを入れたサーブだったのだが……。
「えいっ!」
綾奈は難なく俺のサーブをリターンした。
左右の壁にそれぞれ一度ずつ当たり、俺のゴールを狙っている。
掛け声も、綾奈自身もめちゃくちゃ可愛いのだが、打球はまったく可愛くない。
「なんの!」
俺は持っていたマレットを左から右にスライドさせ、綾奈のシュートをブロック。すごい勢いで壁にバウンドしているパックをマレットで上から押さえつける。
綾奈を見ると目が合ったので、俺たちは互いに不敵な笑みを浮かべた。
それからすぐにパックに視線を戻し、打ち返す。
あぁ、やっぱり綾奈との勝負は楽しいな。
真剣勝負をしているのに、どうしてもテンションが上がって笑みがこぼれる。いや、だからこそなのかもしれない。
綾奈はどんな表情……気分で戦ってるのかな? パックに集中しているからわからないけど、きっと俺と同じだよな?
それから何度かラリーを続け、綾奈に隙ができた。
打ち返した際に、俺から見て右側が手薄になった。
そして打ち返されたパックは、早い勢いのまま、まっすぐ俺に向かっている。
「ここだっ!」
俺は右手に力を込め、最大パワーでパックを打ち返した。
超スピードのリターンに、さすがの綾奈も反応が遅れ、綾奈の守るゴールにパックが吸い込まれていった。
上の電光掲示板に、俺のスコアが「1」と表示された。
「よっしゃ!」
「あぁ~、やられちゃった……」
俺はガッツポーズをして喜びを表現した。
以前にも言ったかもだが、俺はエアホッケー対決に関しては、綾奈に華を持たせるつもりは一切ない。真剣勝負なんだ。そんな勝ち方は綾奈だって望んでない。
だから、俺は今、綾奈を叩きのめす気構えだ。
多分、綾奈も俺と同じ考えだろう。
その証拠に、綾奈の目つきが変わった。
いつも俺に向けてくれるなトロけた笑顔じゃない。目に鋭さが増している。
いよいよ綾奈が本気になった! これは今まで以上に気を引き締めないと!
次は綾奈のサーブ。どんな打ち方をするのか警戒していると、綾奈はマレットをコツンと当て、パックはゆっくりと前に進みだした。
次の綾奈の一手は読めた───
「……!」
「なっ……!?」
綾奈はノロノロと進むパックを渾身の力で打つ……ブーストを付けたサーブを打って、俺の読み通りだったのだが、俺の反応が一瞬遅れてしまい、サービスエースを決められてしまった。
筐体の下から、パックがカランと音を立てて落ちてきた。
「ま、マジかよ……」
綾奈と何度も戦っているけど、サービスエースなんて一回……二回あるかどうかだ。
ランニングと筋トレの成果が影響した結果なんだろうな。
「どうかな真人? 私、強くなってる?」
そう言って見せた笑顔は、さっきよりも不敵だった。
「ああ。正直驚いてるよ。さっきのサーブもめちゃくちゃ早かったし」
「えへへ。これからどんどん差を広げちゃうよ!」
綾奈はまた構えた。
そんなお嫁さんを見ながら、俺はゆっくりとパックを拾い、それを盤上に置く。
「そうは───」
下からの空気でゆっくりと動くパックを俺はまた渾身の力で打った。
「させない!」
いつしか、この勝負に夢中になり、俺はどんどん集中していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます