第751話 翌週、ゲーセンへ

 翌週、四月十九日の水曜日の放課後。

 この日はお互いの部活が休みで、フェス会場で約束したエアホッケー対決をするために、俺たちはゲーセンに行くためにアーケード内を手を繋いで歩いていた。

ちなみに月曜の昼休みに茜と共に俺のクラスにやってきた杏子姉ぇに、さりなさんに聞いた杏子姉ぇの本心をプラスしてチケットのお礼をめっちゃ言ったら、「昨日の夜アヤちゃんにもすごくお礼を言われたから勘弁してー!」と顔を真っ赤にしながら言って教室から逃走した。

ストレートに気持ちを伝えられることに弱い杏子姉ぇだけど、まさか逃げるとは思ってなかった……。

でも、その次の日の火曜日には普通になっていた。

 それにしてもゲーセンに行くのは約半月ぶりだけど、エアホッケーをするのはいつ以来かな?

 前回は美奈の誕生日プレゼント……美奈が欲しがっていたプライズのフィギュアを取りに来ただけだったからな。

「久しぶりのエアホッケー……楽しみ!」

「俺も楽しみだ! 今回も俺が勝たせてもらうよ」

 前回エアホッケーをしたのっていつだったかな? 一ヶ月以上は前だった気もするけど、勝敗は覚えている。

 俺が勝ったので、今回も勝って連勝記録を更新してやる!

「今日は負けないもん!」

 綾奈も気合いが入ってるな。勝負は毎回接戦だからな。今回も油断しないようにしないと。

 それと、多分大丈夫だと思うけど、聞いておくか。

「ねえ綾奈」

「なぁに真人?」

「そのスカートの下……ちゃんと穿いてるよね?」

 そう聞いて、俺は綾奈のスカートに視線を落とす。

 もちろんパンツのことじゃない。

 フェスで昼食を食べてる時にお願いした、エアホッケーをする時にはショートパンツか何かを穿いといて欲しいとお願いした件についてだ。

「うん。体操着を穿こうと思ったんだけど、それだとスカートからはみ出て変な感じになっちゃうから、家で穿いてる白のショートパンツを穿いてるよ」

「ああ、あれか」

 俺も何度か見たことがある、あのショートパンツだな。マジで丈が短くて、見ててドキドキするやつだ。

 でも、それを穿いてるのなら大丈夫だな。

「……あの、真人。そんなに見られると……」

「あ、ああ……! ごめん!」

 綾奈は両手でスカートをおさえた。

 ちょっとスカートを見すぎたな。

 視線を綾奈の顔に戻すと、綾奈は頬を赤くして困った感じの上目遣いで俺を見ていた。

「……ショートパンツ、見る?」

「……ふ、ふたりきりの時に、ね」

 俺は顔を逸らし、人差し指でポリポリと頬をかいた。

 見すぎて、綾奈に俺がショートパンツを見たそうにしてると思わせてしまった。いやまぁ、見たくないと言えば嘘になってしまうんだけど、今じゃなかったな。ちょっと反省。

 ……今の話の流れだと、今日なのかな?

 エアホッケーだけやって帰るとしても、綾奈の家に着くのは五時半は超えてしまうな。

 今日だとしても、あんまり遅くならないように心掛けないと……。

 そこからはお互い照れてしまい、口数が少なくなりながらもゲーセンに到着した。

 店内には俺たちのような学校帰りの学生がたくさんいる。

「お客さんいっぱいいるね」

「うん。エアホッケー空いてるといいけど……」

「行こ、真人」

 綾奈は手を繋いだまま歩き出したので、俺は「うん」と言い、綾奈に並んだ。


 エアホッケーの筐体が見えてきた。

「誰かやってるね」

 綾奈が言うように、既に先客がいてゲームが盛り上がっているところだ。

「だね」

 少し離れた場所で、筐体の上に表示されたスコアを見ると、四対二となっていて、俺たちから見て奥の男子がリードしていた。

 このスコアだと、もうそんなに待たなくても大丈夫そうだな。

「試合も大詰めみたいだし、終わるまで待ってようよ」

「うん」

 しばらくその場所で観戦し、結局そのスコアのまま、ゲームは終了した。

「うっし! 俺の勝ち! 約束通りお前ジュース奢りな」

「くっそー! ……わかったよ。しゃーねーなぁ」

 どうやらジュースをかけての勝負だったようで、勝った男子は負けた方の背中をバシバシ叩いて、負けた方は嘆息している。

 勝った男子が俺たちを見てきて、バシバシ叩いていた手がピタリと止まった。

 これは……もしかしたら『早くどけよ』みたいな感じで捉えてしまったのかな?

 内心でちょっと反省していると、勝った男子が耳打ちをして、負けた男子もこちらを見た。

「「?」」

 俺と綾奈は何を話しているのかわからずに首を傾げる。

 も、もしかして……あいつら綾奈をナンパしようとしてるのか!?

 いやでも、あの店長がいるこの店で騒ぎを起こすのはリスキーだとわかってるはずだけど……。

 ……って思ってたら、二人組は駆け足でその場を離れてしまった。

「な、なんだったんだろう?」

「わかんない……」

「ま、まぁ……空いたし、勝負といこうか」

「うん!」

 俺たちはどっちが先にサーブを打つかのジャンケンをし、俺が勝ちお金を入れる。

 そして俺はマレットと一緒にパックを持ち、筐体越しにお嫁さんと向かい合う。

「本気でいくよ綾奈!」

「私も! 負けないからね真人!」

 こうして、もう何度目かわからない、俺たち夫婦のエアホッケーガチ対決がスタートする……!

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