第746話 STAR AXELL勢揃い

 そんなこんなで、俺と綾奈はスタアクの楽屋に通された。

 扉を開けてくれたのはスーツ姿の髪の短い美人さん。おそらく彼女がスタアクのマネージャーさんだろう。真面目そうな人だ。

 さりなさんに案内された時は焦った。もしも衣装に着替えている最中に入ってしまったら、俺は確実に社会的死を迎えてしまうから。

 一般人がアイドルの楽屋にお邪魔していいのかというより前に、そんな考えが頭をよぎったのだけど、みなさん既に衣装に着替えていて一安心だ。

 アップテンポでかっこいい曲が多いから、衣装は制服を基調としてあるけど、可愛さのなかにかっこいい要素もあっていいな。

 そして楽屋に入り、さりなさんが他のメンバーに俺たちを紹介すると……。

「その人が噂の杏子さんの弟さんですか!?」と、最年少、中学三年の明理川あかりがわまなかさん。

「へ~、けっこういいじゃん。弟君」と、最年長、セクシー担当の二十歳……安知生あんじゅうちづるさん。

「婚約者の綾奈さん……すごく可愛い」と、俺たちの一つ下、高校一年の船屋ふなやともかさん。

「うちのメンバーに欲しいわね」と、俺たちと同い年、高校二年生の高田たかたあけみさん。

「ふえっ!?」と、スタアクメンバーではない、世界一可愛い俺のお嫁さん……西蓮寺綾奈。

 俺たちはスタアクのメンバーに囲まれていた。

 いきなり本物のアイドルに囲まれて困惑する。

 普通、逆じゃない!? 俺たちのような一般人がアイドルをこうやって取り囲むものじゃないの!?

 なんかしれっと綾奈は勧誘されてるし……。

 アイドルオタクの綾奈なら、この状況はまさに天国……かと思いきや、俺以上にあたふたしている。勧誘の件もそうだし、突然のことで動揺し、キャパオーバーを起こして、完全に現実と認識できていないのかもしれない。

「みんな。気持ちはわかるけどちょっと落ち着いて。それとあけちゃん。勧誘はダメよ」

 さりなさんが場を取り持ってくれて、メンバーの皆さんは俺たちから離れた。これでちょっとは落ち着けそうだ。

「えー、なんでダメなんですかさりなさん! 綾奈ちゃん、すっごく可愛いから入ってくれたら絶対にウチらの人気に繋がりますよ」

 それはわかる。けど……。

「ダメなものはダメ。杏子に聞いたけど、綾奈ちゃんは弟君の傍から絶対に離れないそうよ。将来はふたりで何かお店を開くみたいだし、それに……」

 そこまで言って、さりなさんは俺を見て、微かに微笑んだ。

「弟君も、綾奈ちゃんを絶対に離さないって顔してるし」

「……そう、ですね。たとえスタアクの皆さんでも、俺のお嫁さんは絶対に渡したくないです」

「きゃっ!」

 俺は言い切り、綾奈の肩を抱いて引き寄せた。

 突然のことにびっくりした表情で俺を見てきたけど、すぐに微笑み、俺に抱きついた。

 俺は手を綾奈の肩から頭に移動させると、綾奈はまた俺を見て、ふにゃっとした笑みを見せてくれた。

「……ね?」

「ほ、本当だ。私たちがいるのに平然とイチャイチャしてる……」

「素敵です! 私も将来、こんなこと言ってくれる弟さんみたいな人に巡り会いたいです!」

 さりなさんとあけみさんは若干面食らっていたけど、最年少のまなかさんはテンションが上がっている。

 美奈たちの一つ下の中二だし、アイドルだけど恋愛にも興味津々みたいだ。

というか普通に考えて、恋人……婚約者がいるアイドルってダメなんじゃ……。

「あの……ところで皆さん、どうして俺を『弟』と呼ぶんですか?」

 年上のさりなさんとちづるさんに言われるのならまだわかるけど、まなかさんまでそう呼ぶとなると、どうしても気になってしまう。

 そしてその質問に答えてくれたのはさりなさんだ。

「あ、やっぱり気になっちゃう? 実はね、これも杏子に言われてるんだけど、わたしたちが弟君を名前で呼んだら、綾奈ちゃんは絶対に嫉妬するからって」

「何言ってんだあの姉は!」

 相手はアイドルだぞ!? 綾奈も芸能人に嫉妬するとは思えないんだけど。

 だってどう考えたって深い仲には発展しないんだぞ?

 綾奈を見ると、ふにゃっとした笑顔は消えて、じーっと俺を見ている。それどういう感情なの?

 そこへちづるさんが俺に近づいてきた。

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