第744話 待っていたアイドル
受付のお姉さんの指示した約束の場所に来たら、まさか人気アイドルの早川さりなが待っていたなんて誰が予想できる!
というか、杏子姉ぇからチケットを貰ってから信じられないことばかりが起きる。
マジでなんなんだ? 一体どうなっている!?
信じられなさすぎて理解が追いつかない。
俺と綾奈が立ち尽くしているのを見ながら、早川さりなさんはゆっくりとこちらに近づいてくる。
うっわ……さすがアイドルだけあって可愛い。
俺たちを不敵な笑みで見てるからか、なんかオーラを感じる。
こ、これが本物のアイドル……!
早川さりなさんは俺たちの傍にやって来て、不敵な笑みのまま、俺を見上げて言った。
「一応確認だけど、君が杏子のいとこで合ってるのよね?」
「……は、はい! えっと、中筋……真人です」
早川さりなさんは、今度は綾奈を見る。
「そして、あなたがこの男の子の婚約者の……」
「ひ、ひゃい! さ、西蓮寺綾奈、です!」
綾奈、相当緊張しているな。俺よりもずっとガチガチじゃないか。
でもまぁ、大好きなアイドルに会ったんだから無理もないか。
「うん、よろしくね。……杏子が言ってた名前と一致するわね。あ、知ってると思うけど私は『STAR AXELL』の早川さりなよ」
さりなさんも自己紹介をしてくれて、俺たちに不敵じゃない笑みを見せてくれた。
「さりなちゃん……かわいい……!」
俺もそう思う。 こんな状況でも口にしたら綾奈が『むぅ』ってするかもだから言わないけど。
「ありがと。綾奈ちゃんだって可愛いわよ」
「あ、綾奈ちゃん…………ふえぇ……」
綾奈がさりなさんに名前で呼んでもらえて、感極まってちょっと泣いてしまった。
……というか、前にもこんなことあったな。
「ふふ。……さて、杏子の弟君」
「は、はい!」
いきなり呼ばれてびっくりし、声が上擦ってしまった。
……俺は名前じゃないんだ。
「キミは……キミと綾奈ちゃんは、このことをどこまで杏子に聞いてるのかしら?」
「このこと……ですか?」
「うん。と言っても、その様子だとわたしがここで待っているのは杏子から聞いてないみたいだけど……」
「や、やっぱり杏子姉ぇはさり……早川さんがここにいることを知ってたんですか!?」
ここに入れたこと自体がすごいことなのに、その上早川さりなさんが待っていたんだ。これを杏子姉ぇが把握していないのはおかしいとは……ちょっと思っていたけど、それならなんで何一つ教えてくれなかったんだ!?
「さりなでいいよ。ちなみに弟君は杏子になんて言われてチケットを受け取ったの?」
「は、はい。えっと───」
俺はさりなさんに、杏子姉ぇからチケットを貰った経緯を話した。
俺と綾奈の交際半年記念のプレゼント的な意味でチケットを貰ったこと。その時に杏子姉ぇから、さりなさんに『こっちの知り合いにアイドルファンがいたら配っといて』と言われていたこと。そして今日ここに来てみれば予想しなかった……いや、できるはずもなかった出来事が次々に起こって驚きの連続だったこと等……緊張と混乱でうまく説明できたとは思ってないけど、それでもさりなさんは相槌を打って黙って俺の話を聞いてくれた。
だけど、俺の話を聞いているうち、さりなさんはどんどん険しい顔になっていった。
「あの子……肝心なこと全然話さないどころか嘘までついて……」
さりなさんはため息混じりにそう言った。
「う、嘘……ですか?」
「そう、嘘」
「で、でも……杏子姉ぇは確かに昔から俺にイタズラを仕掛けるのが好きでしたけど、嘘なんてつかれたことないですよ」
小さい頃のおぼろげな記憶……そして杏子姉ぇがこっちに帰ってきてからの記憶を思い返しても、杏子姉ぇが嘘を言った場面は思い出せない。
「あぁ、違う違う」
「え?」
「杏子が嘘をついたって言うのは、キミたちにではなくて、自分の気持ちに対してよ」
「自分の、気持ち……ですか?」
一体どういうことなんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます