第742話 特典目当ての昼食タイム
無事にグッズを買い、会場を見て回り、フラブとメロメロのステージを見た俺たちは、現在昼食を取っている。
俺はカツカレーとシーザーサラダとコーンスープとウーロン茶。
綾奈はナポリタンとシーフードサラダとミルクレープとカフェオレだ。
なんでこんなに頼んだのかというと、一品注文するごとにオリジナルのブロマイドが貰えるからだ。
銀色の袋に入っていて中身はわからないが、綾奈が欲しいと言ったので、俺も喜んで協力した。
「誰狙いなの?」
「スタアクのさりなちゃんと、フラブのアヤメちゃんだよ」
『Flower《フラワー》 Bouquet《ブーケ》』は五人組アイドルグループで、メンバー全員の名前が花の名前になっている。
アヤメちゃんこと
綾奈はカバンからクリアファイルを取り出した。
「?」
俺はなんでクリアファイルを持ってきているのかわからずに綾奈をじっと見ていると、綾奈はブロマイドが入った銀色の袋をクリアファイルに入れ、それをカバンにしまった。
なるほど……この特典があるのを知ってたからクリアファイルなんて持ってきてたのか。さすがだなぁ。
「本当ならここで開封したいけど、早くしないと約束の時間に遅れちゃうからね」
現在お昼の十二時半。約束の時間まであと一時間はあるけど、ゆっくりしているとあっという間に過ぎてしまうから、余裕を持った行動を心がけるように綾奈と話し合った。
特典目当てとはいえ、メニューも多く注文してしまったから、食べる時間も考慮して、だ。
「そうだね。大丈夫だと思うけど、一時には食べ終えるようにしよう」
「うん」
俺たちは両手を合わせて……
「「いただきます」」
食材に感謝を述べて、俺はスプーンを、綾奈はフォークを持って主食から食べはじめた。
全体の半分くらい食べ終えた頃、俺は少し前から気になっていたことを綾奈に聞いてみることにした。
「ところで綾奈」
「なぁに真人?」
「どうして泉池には敬語だったの?」
綾奈はあの物販列で泉池とアイドルトークで盛り上がっていたけど、終始敬語で話していた。それは泉池も同じなんだけど、同い年なんだから別に敬語で話さなくてもいいのにと、俺は二人が仲良く話している様子を拗ねながら見て、そんな疑問が浮かんでいた。
「えっと……初対面だし、真人が嫌な気持ちになるかなと思って……」
「それは嬉しいけど、そこまで心が狭くない……はず」
いつも仲のいい人とはタメ口で話す綾奈に、『知らない人とはタメ口禁止』って……俺、悪い意味で重いやつじゃん。
もし俺が本当にそんなことを言えば、さすがの綾奈も引いちゃう気がする。
「……二割くらいはその理由で、一番の理由は、なんだか泉池さんは同い年には見えなくって……」
「あー……確かに」
泉池、顔濃いもんな。
体格もガッチリしてるし、確かに同い年には見えにくいかも。俺も最初は先輩かと思ったし。
「なんだか店長さんを思い出しちゃう」
「それは俺も同じ。店長をちょっと小柄にしたような、そんな感じがする」
ゲーセン店長の磯浦さんは、確かラグビーをやっていたって聞いてるから、あんなに体が大きいんだが、泉池はなにかスポーツやってるのかな?
かなり鍛えてる感じだったし……ウエイトリフティングとか?
「ねぇ真人」
俺が泉池がやっているスポーツを予想していると、綾奈が声をかけてきた。
「どうしたの綾奈?」
「久しぶりにゲームセンターに行きたくなっちゃった」
「あはは、店長の話題が出てたもんね」
春休みに一度行ったけど、その時はクレーンゲームだけしかやらなかったしな。
「俺も行きたくなってきたから、水曜日の放課後にでも行こうか?」
「うん! 今度はエアホッケーしようね」
「もちろん! あ、でもひとつお願いしていいかな?」
「お願い?」
綾奈は首を傾げた。いつ見ても可愛い。
「うん。スカートの下にショートパンツ的な物を穿いといてほしい」
付き合う前に、初めてゲーセンデートした時にもエアホッケーをしたんだけど、その時には考える余裕がなかったが、制服の短いスカートでエアホッケーをすると、もしかしたらその中が見えてしまう危険があるし、悪ガキどもがしゃがみこんでスカートの中を覗いたりするかもしれないから、対策は万全にしておいてほしいからお願いをした。
「わかったよ。体操着の下を穿くようにするね」
「お願いね。……っと、ちょっと食べるペースを上げようか」
時間を見たら、一時十分前だったので、俺は少なくなってきたカレーをかきこんだ。
「うん!」
綾奈もフォークにパスタを多く巻き付けて、それを口に入れていた。
そうして一時を少し過ぎてから、俺たちは食事エリアをあとにした。
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