第741話 綾奈と泉池のアイドルトーク
「さ、西蓮寺さんは、今日のフェスではどのグループ目当てなんですか?」
もう少しでグッズが買えるタイミングで、泉池が綾奈にそんな質問をした。
同じフェスで知り合いにばったり会ったら、それは聞きたくなっちゃうよな。綾奈と泉池は直接的な知り合いではなかったし、知っているのは綾奈だけだったけど。
この物販列に並んでいる間に、綾奈と泉池はちょっとだけ打ち解けたはずだから、聞いたんだろうな。
でもなんで敬語なんだ?
「そうですね……私はスタアクと、フラブと、メロメロ……です」
フラブは『Flower《フラワー》 Bouquet《ブーケ》』の略で、メロメロは『MELLOW《メロウ》 MELLOW《メロウ》』の略だ。
このフェスに参加するグループ名は覚えてきたんだけど、言ってしまえばスタアク以外はそれだけだ。圧倒的に予習する時間が足りなかった。
綾奈はさすがだなぁ。
というか、なんで綾奈も敬語?
「いいですね! かっこいいのも、可愛いのもおさえてますね!」
「特に見たいのはその三グループですね。泉池さんはどうなんですか?」
「俺もスタアクとフラブ、そしてミルガです」
ミルガは……確か『Milky《ミルキー》 Garden《ガーデン》』だったかな?
まだまだ略称は覚えきれていないから頭がこんがらかりそうになってしまう。
「わぁ~、いいですね! ミルガのあの優しい曲調と歌声は癒されますよね!」
「そうなんです! 特にミルガの
「愛香ちゃんかわいいですもんね。私はさりなちゃんとアヤメちゃんと
えっとえっと……さりなさんがスタアクで、アヤメさんはフラブで、葵衣さんは……メロメロ、だったかな?
さりなさん以外は顔と名前が一致しない……。
「西蓮寺さんって可愛い系が好きなんですね。全員どちらかと言えば可愛い系じゃないですか」
「そうですね」
「それにアヤメちゃんは西蓮寺さんの名前と似てますし」
「推しの一人と名前が似てるって嬉しいです」
「じゃあじゃあ、推し曲ってありますか?」
「もちろんです! 私は───」
「……」
綾奈と泉池……話が盛り上がってるなぁ。
綾奈もさっき言ってたし、泉池も多分、綾奈と同じように周りに同じ趣味を持つ友達がいないんだろうな。
だからお互いのリミッターが外れている感じ……みたいだ。
俺も……もうちょっと勉強してくるべきだったな。綾奈と泉池の会話に入っていけない。
二人とも、楽しそうだなぁ……。
泉池のあんな活き活きとした表情、まだ知り合って日が浅いけど見たことないし、綾奈は綾奈で、俺以外の男の人にはほとんど見せたことのないような……楽しそうな表情で喋ってるし……。
泉池に……知り合って数十分の異性にあんな嬉しそうな表情を向けて喋る綾奈を見るのは……面白くないな。
俺は一度だけ鼻で深呼吸をした。
「……真人!」
綾奈が俺の名前を叫んだ。
「…………え?」
綾奈を見ると、やらかしてしまったような表情をしていて、今にも泣きそうになっていた。
「ご、ごめんね真人! 真人をほったらかしにして、泉池さんと話しちゃって……」
「いや、綾奈が謝ることじゃないって。俺の勉強不足が悪いんだし」
「で、でも! 知り合ったばかりの男の人と楽しくおしゃべりして、ヤキモチを焼かせちゃったのは事実だから……ごめんね」
「……うん」
俺は小さく頷いて、綾奈の手を握る力を強めた。
俺はヤキモチを焼いて拗ねていた。
自分の勉強不足を棚に上げて、泉池と楽しくアイドルトークをする姿を見て嫉妬した。
自分のせいでもあるのはわかっているけど、やっぱりあんな笑顔は、俺以外に向けてほしくない……そう思わずにはいられなかった。
でも、どんな理由があるにしろ、二人が普段できないアイドルトークを止めてしまったのは事実なので、俺もちゃんと謝らないとな。
「俺の方こそごめん。俺が拗ねてしまって、会話を止めてしまって」
「真人が謝ることじゃないよ!」
「そうだな。お前の婚約者ってわかってて、俺も楽しくて話を止めれなかったから……悪かった中筋」
「綾奈……泉池……ありがとう。ごめんな」
俺は決めた。
明日から……ううん、今日の夜からでも、ちゃんとアイドルの勉強をしよう!
綾奈は俺のためにラノベやアニメ、ゲームに手を出してくれたんだから、俺も中途半端じゃなく、ちゃんとした知識を身につけよう。
それからは空気も元に戻り、三人で楽しく会話をした。
雑談に花を咲かせた後、俺たちは無事にお目当てのグッズを購入することができた。
泉池のやつはグッズをほぼ全てコンプリートしていたけど……あいつお金は大丈夫なのかな?
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