第721話 中村はエロい

 中村と一緒に、みんなから離れて駅構内の奥……隅の方へ移動すると、中村が俺の肩を組んできた。

「!?」

 いきなりの展開に驚きを隠せない俺。

 な、なんなんだいきなり……中村のやつ、一体何を?

 俺が中村の行動に戸惑っていると、中村は顔を俺の耳に近づけてこう言った。

「なぁ中筋。お前、西蓮寺とどこまでいったんだ?」

「………………はい?」

 中村の質問の意味を理解するのにけっこうかかった。

 つまりアレだよな? 中村が聞いたのは、綾奈と一緒にどっか遠い所へ行ったことがあるのか……ではなく、綾奈と恋人としてのアレコレをどこまで済ませたのか……ってことだよな?

 もしかして、中村はそれが聞きたくて俺をみんなから引き離したのか!?

 確かにこんな話、女子のみんなの前では絶対にできない内容だけどさ、そもそもそんな話、一哉や健太郎ともしたことないぞ!?

「お前にベタ惚れだけど大人しい西蓮寺と陰……奥手そうな中筋……付き合ってそろそろ半年だろ? 単純に興味があるんだよ」

 こいつ今、俺のこと『陰キャ』って言おうとしたな。そういうことを聞きたいがために、俺の機嫌を損ねないために言い直した……とは違うな。やっぱり心を入れ替えたから言い直した雰囲気がある。

 それにしても、だ。

「中村……お前やっぱりエロいだろ?」

 これまで仲良くなかった俺のそういう事情を聞こうとしてるんだ。数ヶ月前までは彼女を取っかえ引っ変えしてたし、こいつは絶対にエロい!

「男なんてみんなそんなもんだって。思春期だし尚更、な。もちろん誰にも言うつもりはないからな」

「……思春期を免罪符にしてないか?」

 ……まぁ、今の中村なら信用できるか。

 それに、中村の期待には応えられそうにないから、言っても中村がシラケるだけだろう。

「別に俺たちが夫婦だからって、お前が思ってるようなことはしてないよ」

 言わないと解放してくれなさそうだから、俺は話した。

 すると中村は、俺から少しだけ顔を離し、「は? マジかよ」と言って驚いていた。

「どこまでを期待してたのかは知らんけど、俺たちにも色々事情があるんだよ」

「それにしてもプラトニックすぎないか?」

「いいだろ別に。俺も満足してるんだからさ」

 綾奈も多分、今くらいのスキンシップで満足しているはずだ。

 お互いに満足しているのなら、無理にその先に進むことはない。焦ってもいいことはないからな。

 すると中村は、制服のポケットに手を入れ、何かを探り始めた。

「中筋、手ぇ出せ」

「え? なんで?」

「いいから」

 よくわからないが、俺は中村に言われた通りに手を出した。

 すると、中村は俺の手のひらに何かが入った小さい正方形のビニール袋を置いた。

「俺はしばらく使う予定がねーから、お前にやるよ」

「これ、は……!」

 俺は中村が手渡してきた物の正体を遅れて理解した。

 こ、これは……初詣のあと、綾奈と一緒に行ったドラッグストアで、綾奈が顔を真っ赤にしながら見ていた物じゃないか!!

「ばっ……! お前、なんて物を……!」

「お前が西蓮寺とそういう雰囲気になっても困らないようにだ」

 そう言うと中村はニヤリと笑った。

「いらん! 返す!」

「そう言うなって。後々必要になる物なんだからよ」

「それは最低でもあと二年は先の話だ! だからいらん!」

「は? 二年も?」

 なんでこいつは信じられないものを見るような目をしてるんだ!? 俺たちが婚約してるからソレをするのが当たり前とでも思っているのか!?

 仕方ない……あれも言うか。

「綾奈のお父さんとの約束でな、子どもを作る行為はするなと言われてるんだよ……」

 弘樹さんと初めて会った時に、『高校生らしい交際を』と言われていたが、綾奈と婚約したクリスマス以降、その約束が緩和されて今に至っている。

「それもあるし、もし約束してなかったとしても俺は高校生の間は綾奈と最後までするつもりはない。ソレを持っているともしかしたらその覚悟も揺らぎそうだから……だから返すよ」

 マジで中村から貰ったとしても、当然するつもりなんてない。

 もし何かの拍子に綾奈に見つかって、綾奈が恥ずかしがって早とちりしてもいけないから、ソレを持つのも、やっぱり高校を卒業してからだ。

「お前……あの西蓮寺と一緒にいて覚悟が揺らがないのすげーな」

 揺らいでなくはないさ。今まで何度理性が崩壊しかけたかわからない。

 弘樹さんとの約束を破ったら、間違いなく綾奈と結婚させてもらえないし、綾奈に怖い思いをさせたくないからこそ、ブレーキをかけれるのだと思う。

 綾奈との絆も、綾奈のご家族のとの絆も、大事にしたいんだ。

 中村は俺から返されたソレをポケットにしまった。

「わかったよ。悪かったな」

「いいよ。お前なりの気遣いってやつだと思ってるからさ」

 恋愛経験豊富な中村だからこそ、自然とそういう心配(?)をしてくれたんだと思ったから、余計な事だとは思わない。

「……俺は興味本位で聞いたってのに、お前ってやつは」

「なんだよ?」

「……いや、なんでもない。そうだ。連絡先交換しようぜ?」

「それならいいよ」

 俺は中村と連絡先を交換してから、みんなの元へと戻った。

 まさかあの中村の連絡先が俺のスマホに入るなんて……人生何が起きるかわからないな。

 でも、嫌な感じは全くせず、むしろ少し嬉しかった。

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