第719話 呼び出された中村

「な、中村君!?」

「な、中村先輩だ!」

「え、ヤバ……かっこよ」

「あれが噂の中村君?」

「確かにイケメン」

「なな、中村先輩……!」

 中村の登場に全員が驚く中、後輩や中村を初めて見たみんなからは、やはり中村の評価はイケメンだった。

 というか、なんで中村がここに?

「あれ? 中村どしたん?」

「宮原……お前がここに来いって言ったんじゃねぇか!」

「あぁ、忘れてた」

「てめぇ……」

 どうやら中村を呼んだのは千佳さんみたいだけど、なんでだ?

「ちぃちゃんがお昼休みに電話してたのって、中村君だったの?」

「まぁね。夕姫の……変な同盟の件……こいつが当時から綾奈に付きまとっていたからできたんだから、責任を取らせるために呼んだ」

「マジか。お前よく来たな」

 中村は中学時代、千佳さんも口説き、そして綾奈も何度も口説いていた。

 それを見た千佳さんは中村を嫌っていたらしく、中村を呼び出してヤキを入れていたらしいけど……よくそんな相手の招集に応じたな。

「……断るとあとが怖いんだよ」

「あぁ、納得」

 千佳さん、マジで腕っぷしは強いらしいからな。

「ちょっと真人! あんたも納得しないでくれる!?」

「痛い!」

 千佳さんに背中を思いきり叩かれた。なんか初詣のことを思い出すな。

「だ、大丈夫真人!?」

「だ、大丈夫……てか、今のは俺が悪いから。あはは……千佳さんごめんね」

「わかればいいよ」

 綾奈は痛がる俺を心配して、千佳さんに叩かれた背中を優しくさすってくれた。

「西蓮寺が……呼び捨て……」

 中村は俺を呼び捨てにしている綾奈に驚いているみたいだ。

 学年末テスト勉強でファミレスで再会した時、中村の前では俺の名前は呼んでないし、それより前……去年の十一月にアーケード内にあるゲーセンの時は、綾奈はまだ俺を『君』付けで呼んでたからな。

「そんなことより、中村……ほら!」

 千佳さんが目で中村に訴えかけると、中村は「あ、あぁ……」と言い、八雲さんの正面に立った。

 身長百八十センチオーバーの中村と百五十センチくらいの八雲さん……身長差約三十センチの二人を見て、俺は頭の中で茉子のご両親を思い浮かべていた。

 中村は八雲さんと目を合わせず、後頭部をかきながら言った。

「まぁ、なんだ……確かに西蓮寺を狙ってた時期もあって、そのせいで君みたいな同盟? が作られたって宮原から聞いたけど、西蓮寺が選んだのは中筋だ」

 そこで言葉を区切り、中村は俺と綾奈を見た。八雲さんも……そしてみんなも俺たちを見ている。

 な、なんか視線をいっぺんに集めすぎて落ち着かない。

 綾奈も落ち着かないのか、さっきより強く俺の腕に抱きついている。や、柔らかい感触が……!

「はい……」

 八雲さんは寂しいのか、眉が下がっている。

 俺たちの仲をみとめてくれたけど、それはついさっきのことだから、まだ心までは整理出来てないのかもしれないな。

「俺もあいつらが付き合ってるって知った時、罰ゲームだろって言ったけどさ、色々あって……今は中筋と西蓮寺のこと……お似合いだなって思ってんだよ」

「中村……お前……」

「中村君……」

 まさか、中村の口から俺たちがお似合いって言葉が聞けるなんて思いもしなかった。

 それに今さらだけど、中村の女子に向ける態度が、当時よりも言葉づかいとかが男子よりじゃないか?

 女子にはもっとイケメンスマイルを振りまいて、めっちゃ紳士的に話しかけていたはずなのに……。

「だからさ、えっと……八雲さん、だよな? 八雲さんもこれからはそんな同盟なんて忘れて、こいつらを応援してやってくれよ」

 この短時間に、中村とは思えないようなセリフがいっぱい聞こえてくるな。

 前は学校一の美少女の綾奈と、さえない陰キャオタクの俺の恋を応援なんて絶対にする奴じゃなかったのに。

 やっぱり中村は、マジで変わったんだな。

 女子と男子で態度をガラッと変えていたけど、それもなくなってきているみたいだしな。

「……はい」

 八雲さんは数秒の沈黙の後に頷いた。心がまだ現実を受け止めきれてないから仕方ないよな。

「中村、ありがとな」

「別にお前のために来たわけじゃねーよ。宮原に呼ばれたから仕方なくだ」

「それでもありがとう」

 千佳さんの誘いを断ってあとが怖いと言っていても、来ないという選択は出来たはずだ。なのに中村はここに来てくれて八雲さんにちゃんと話してくれた。

 俺はマジでありがたいと思っていたから、お礼を言うのは当然だ。

「……ったく、調子狂うぜ。まぁ、宮原に呼ばれたのもあるが、俺も個人的にやらなきゃいけないと思ってたことがあったから……だから来たんだよ」

「やらなきゃいけないこと?」

「あぁ……」

 なんだろうな? 中村がしなきゃいけないことって?

 色々予想を立てていると、中村がゆっくりこちらに歩いてきている。

 え? もしかして俺に関係してることなのか? なんだ? ますますわからん!

 俺が驚いてプチパニックになっていると、中村は綾奈の正面に立った。

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