第718話 涙の謝罪
「そ、そうなんですよ西蓮寺先輩、宮原先輩!」
「真人神様、ナンパされていた八雲ちゃんを見つけると躊躇なく助けに行ったんですよ!」
「あのお姿はマジでかっこよかったです!」
俺の八雲さんへのアイコンタクトを見ていたのか、一宮さんたちもフォローに入ってくれた。少々オーバーな気もするけど、三人の証言は綾奈たちを信じさせるには十分効果的だ。
「そっか。真人、あんがとね。夕姫を助けてくれて」
「いやいや、知り合いが困ってるのを見て放っておけなかっただけだから気にしないでよ」
「中筋君すごいね!」
「うん。なかなかできることじゃない」
「あたしもせとかちゃんと同じだけど……『真人神様』って?」
金子さんが『真人神様』に疑問を持ってしまった。スルーしてくれていたらありがたかったけど、これはあとで説明しておかないとな。
「あの、千佳先輩……ちょっと」
「え? あぁ……」
千佳さんが八雲さんから手を離すと、八雲さんはゆっくり俺たちに近づき、綾奈の真正面に立つと、さっき俺にしたみたいに、思いきり頭を下げた。
「綾奈先輩! 中筋先輩を悪く言ってしまってごめんなさい! 遅いかもしれませんが、昼休みに言ったこと、撤回します! ですからどうか、私のこと、嫌いにならないでください!」
「「……」」
八雲さんの本気の謝罪に、俺も綾奈も、他のみんなも何も言えなかった。
八雲さんの手を見ると、思いきり握り拳を作っていて、制服の袖を掴んでいた。新しい制服がシワになりそう。
数秒後、綾奈は俺の腕を離し、八雲さんの正面に立った。
「……もう真人の悪口、言わない?」
「言いません! この場で誓います!」
八雲さん……やっぱりオーバーだなぁ。俺に気に入らないことがあれば言ってもいいのに。
これ言ったら話が終わらないから言わないけどさ。
八雲さんの宣誓から数秒後、綾奈の後ろ姿からピリついた空気が消えたように感じた。そして───
「うん。信じるよ夕姫ちゃん」
「っ! ……あ、あやな、せんぱいぃ……本当に、ほんと、うに……ごめんなさいぃ~!」
八雲さんは泣きながら綾奈に抱きついて、綾奈はそんな八雲さんを優しく受け止めていた。
良かった。これでこの二人の仲が壊れないで済んだし、同盟の件も一件落着かな。
綾奈に抱きしめられながらしばらく泣いて、落ち着いた頃、八雲さんは綾奈から離れて俺の前に立った。
「……あの、中筋先輩」
「うん」
俺は八雲さんが言ってくるまでじっと待つ。
「中筋先輩、本当にごめんなさい! それから、助けてくれて、ありがとうございました!」
八雲さんは最初にお礼を言ってきたように、俺に頭を下げた。
ここで俺も、さっきみたいに『困っている知り合いがいたら助けるのは当たり前』って言うこともできたけど、ここは何も言わずにお礼を受け取った方がいいと、そう思った。
ともかくこれで、八雲さんもちょっとは認めてくれるかな。
同盟のメンバーだし、完全に認められるのは無理だけど、時間をかけていくしかないな。
それから、綾奈の婚約者として、俺はこれからも八雲さんと話す機会が絶対に増えるから、これを機にちょっとでも仲良くなれるとありがたいな。
「……おい、宮原」
そう思っていたらホーム方面から千佳さんを呼ぶ男の声が聞こえた。
俺を含めてみんなが声のした方を見ると───
「お前……中村!?」
なんとそこにいたのは、『圭×綾カプ至高同盟』が推してやまないもう一人の人物……中村圭介だった。
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