第716話 驚愕とドキドキ
驚いた八雲さんは、シュバっと後ろに飛び、俺と距離を取ってビシッと俺を指さした。
「うう……嘘です! 中筋先輩はデブで、グータラで、不真面目な陰キャオタクなはずです! なのになんでそんなに痩せて、普通に私をナンパから助けてるんですか!?」
「……嫌われてるとは思ってたけど、君は当時から俺をそんな風に思ってたのか」
いやまぁ、当時の俺は本当にその通りだったから反論のしようもないけどさ……他の合唱部だった後輩にも同じこと思われてそうだな。
「はぁ!? ちょっと八雲ちゃん! なに真人神様をディスってんの!?」
「助けてもらったのに真人神様ってわかった瞬間それってなんなの!?」
「それに、真人神様のどこがデブなのよ!?」
一宮さんたちが俺のフォローをしてくれてるんだけど……君ら、特大のブーメランが自分たちに返ってきてるのに気づいてないのかな?
初めて会った時、君らは俺を『綾奈のストーカー』って言ってたんだよ?
「な、なんで一宮さんたちが? それに『真人神様』って……え? 呼ばせてるんですか?」
「呼ばせてない! この子らが呼んでるだけだ! だからそんなゴミを見るような目で俺を見ないでくれ」
すっげー蔑んだ目で見られて、そして声も低く冷えきっている!
八雲さん……声優に向いてるんじゃないかな?
「それから、一宮さんたちもそれ以上言わない」
俺は一宮さんたちを見て、まだ少しヒートアップしている彼女らを宥めた。
「なんでですか!? 八雲ちゃんは真人神様を───」
「気持ちは嬉しいけど、三対一はダメだよ。それに八雲さんはさっきナンパにあって怖い思いをしてるし、八雲さんの言ってることは間違ってないから。だからこれ以上は言わないでくれ」
「っ!」
「ま、真人神様がそう言うなら……ごめんね八雲ちゃん」
「「ごめんね」」
「わ、私こそ……ごめん」
四人は謝りあってわだかまりは解けた。これで一安心だな。
俺が内心で胸をなで下ろしていると、八雲さんが俺を見ていることに気がついた。
上目遣いとほんのり頬が赤くなっていて……八雲さんに向けられたことのない表情だから緊張する。
「ど、どうしたの八雲さん?」
「あの……中筋先輩、さっきは───」
「まさとー!」
八雲さんが何かを言おうとした瞬間、近くで俺を呼ぶとても可愛らしい聞き慣れた声が聞こえた。
声がした方を見ると、綾奈が走ってこちらに向かってきていて、その勢いのまま、綾奈は俺の腕に抱きついた。
綾奈の登場に、一宮さんたちは「西蓮寺先輩だ! かわいい~!」って言っている。
「ちょっとコンビニに行ってたんだけど……お待たせしちゃってごめんね!」
「待ってないから大丈夫。何買ったの?」
綾奈は「えっとね……」と言いながら、袋に手を入れて買った品物を取り出した。
「お茶だよ。はい、どうぞ真人」
綾奈は取り出したペットボトルに入ったお茶を俺に渡そうとしてきた。
「え? 綾奈が飲むためじゃないの?」
「あんたと一緒に飲むからって一本しか買ってないんだよ」
俺の疑問に答えてくれたのは千佳さんだった。綾奈から遅れること数十秒、ゆっくりと歩いて来た。
「千佳さん! え? 本当綾奈?」
綾奈を見ると、頬を染めてこくりと頷いた。可愛すぎる!
「真人、早速飲む?」
どうしようかな? 正直、八雲さんに会う緊張と、ナンパ男と対峙した緊張で喉が渇いていたから、いただこうかな?
「じゃあ、もらおうかな」
「わかった。……はい」
綾奈はキャップを開けてくれたので、俺は「ありがとう」と言ってペットボトルを受け取り、中に入っているお茶を口いっぱいに含んで喉を潤した。
「ぷはぁ! 美味い……ありがとう綾奈」
「えへへ、どういたしまして」
綾奈は俺からペットボトルを受け取ると、そのままお茶を一口飲んだ。
「美味しいね真人」
「うん」
「あぁ……! 真人神様と西蓮寺先輩……素敵すぎます!」
「とっても仲良しで仲睦まじくて……憧れます!」
「理想のカップルすぎる……」
俺たちを見て、一宮さんたちは何やら感動していた。これも初対面の時とは真逆の反応だなぁ。
「えっと、一宮さんと大島さんと立川さん……だよね? えへへ、ありがとう」
綾奈が一宮さんたちにとろけた笑顔を見せると、一宮さんたちは「きゃあー! 西蓮寺先輩、可愛すぎますー!」と言ってテンションが爆上がりだった。
「……」
そんな俺たちのやり取りを、八雲さんはただ静かに驚いて見ていた。
と、そこへ、またも知り合いがやって来た。
「あ、中筋君もう来てたんだ!」
「中筋君、春休みぶり」
「元気にしてた? って、聞くまでもないわね」
「江口さん、楠さん、金子さん!」
まさか三人までいるとは思わなかった。
「久しぶり。あれ? 三人って電車通学なの?」
「ううん違うよ。徒歩通学だけど、色々気になることがあるから、綾奈ちゃんたちについてきちゃった」
気になることって……やっぱり八雲さん絡みだよな? この状況でそれ以外のことなんてありえない。
俺の腕に抱きついている綾奈が、何かを思い出したように「あ、そうだ!」と言い、心配そうな表情を俺に見せた。
「ねえ真人、真人たちは何分前にここに来たの?」
「えっと……五分くらい前、かな?」
「そのあいだに……八雲さんに何か言われなかった?」
「……え?」
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