第715話 真人、夕姫と対面
放課後になり、俺は一宮さんたちと一緒に電車に乗って、一駅先の高崎高校の最寄り駅に向かっていた。
電車に揺られながら、俺は考えごとをしていた。
まさか、今日の昼休みに『圭×綾カプ至高同盟』が綾奈に接触してきて、それがまさか八雲さんだったなんて……。
確かに八雲さんは当時から綾奈にベッタリで、しょっちゅう俺たちの教室にも来ていたし、部活でも千佳さんと三人でいるのをよく見ていた。
けど、綾奈の様子からして、当時から綾奈と中村をくっつけたがってる風な素振りは見たことがない。俺がいないところではしていたかもしれないけど、少なくとも俺は知らない。
もしかしたら、『圭×綾カプ至高同盟』ってのは、自然に綾奈と中村がくっつくのを見守る同盟で、綾奈に彼氏ができたと知った八雲さんがそれで綾奈に聞いたのかもしれないな。
「真人神……先輩。難しい顔してますけど、どうかしたんですか?」
一宮さんの声が聞こえてそちらを見ると、一宮さんだけじゃなくて大島さんと立川さんも心配そうな表情で俺を見ていた。
「あぁごめん、昼休みに聞いた例の同盟の一人が綾奈に接触したみたいで、それを考えていたんだよ」
このあと会うんだ。ここで誤魔化しても意味はないと思い、俺は三人に正直に話した。
「え? マジですか!?」
「なんて間の悪い……」
「ってか、その変な同盟ホントに実在したんだ」
うん、俺もみんなと同意見だ。
だけど、綾奈が電話ではっきりと言ったから間違いないだろう。
というか、電話の時の綾奈の声が、ちょっと低かったし弾んでなかったから、十中八九八雲さんがなにか言って、綾奈をキレさせたんだろうな。
綾奈のことがマジで好きな八雲さんがキレた綾奈を目の当たりにして……どうなったんだろう?
綾奈や八雲さんの心配をしていると、高崎の最寄り駅に到着した。一駅だから早い。
三人と一緒に電車を降り、構内で綾奈たちを探すけど……いない。
まだ来てないのか、それともコンビニやトイレにでも行っているのか……。
「あ」
正面に八雲さんらしき人を見つけた。綾奈より低い身長で、あの朱色の髪……おそらく間違いない。
そして八雲さんの前にいる私服の男は……なんか馴れ馴れしく話しかけているように見えるけど、あの男子は多分、八雲さんの友達なんかじゃない……!
「っ!」
俺は直感でそう思うと、八雲さん目掛けて走った。
アイツは間違いなく八雲さんにナンパをしている。
綾奈と付き合って……いや、ボディーガードを始めた時から、ああいう目をした男をたくさん見てきたから、俺にはわかる。
八雲さんは俺を嫌ってるかもしれないけど、見過ごすことなんてできない。それに周りに綾奈たちがいない今、助けに入れるのは俺しかいない!
「ごめん八雲さん。おまたせ」
俺は八雲さんの隣に並び、八雲さんを見て優しい口調と笑顔を意識して声をかけた。
「……え?」
「は?」
突然現れた俺に、八雲さんは驚きながら俺を見たけど、その表情には、怯えも含まれていると、これも直感だけど思った。
こいつ、強引にでも八雲さんを連れて行こうとしてたのか?
「なにアンタ? 突然来て邪魔なんだけど」
ナンパ男は不機嫌を隠そうともせずに俺に凄んでくる。
ちょっとビビるが……これでも綾奈のボディーガードを続けてきたんだ! 怯んだりするもんか!
「俺はマジで八雲さんに用があって、学校が違うから待っててもらったんだよ。ね、八雲さん」
「っ!」
俺がまたも優しい口調で話しかけると、八雲さんは目を見開き、コクコクと何度も頷いていた。
「……ちっ、彼氏いんのかよ! はじめから言えよな」
ナンパ男は悪態をつきながら去っていった。どうやら八雲さんを守れたようだ。
というかこの駅ナンパ多くない? 先日も綾奈と千佳さんがナンパされそうだったし、綾奈だけで言えば俺の知る限りで三回くらいここでナンパされてるし……。
そんなこと言ってても仕方ないか。それよりも今は八雲さんだ。
俺が一息つくと、八雲さんは「あ、あの……」と言ったので八雲さんを見ると、低い身長で俺の顔を見上げていて、恐怖は残っているみたいだけど、ちょっと安心した感じの表情をしていた。
でも、ちょっと顔が赤いような……。
「どうしたの八雲さん?」
「その……助けていただいて、ありがとうございました!」
八雲さんはすごい勢いで頭を下げてきた。
マジか……あの八雲さんが、俺にこんなに頭を下げるなんて。
「いや、気にしないでよ。知ってる人がナンパにあっていたら助けるのは当たり前だし、それに用があったのも本当だしさ」
「私に用……ですか? それに、私の名前も知ってるし……あなたは一体?」
あぁ……やっぱり俺に気づいてないのか。
中学からめちゃくちゃ痩せたけどさ、それでも面影みたいなのはあると思うんだよなぁ。
まぁ、中三の時の担任の先生も気づかなかったし、先生以上に俺に興味がなかった八雲さんが気づかないのも当然か。
「俺は───」
「真人神様!」
八雲さんに名乗ろうとしたら、一宮さんの声が聞こえた。
声がした方を見ると、三人が近くにいて、なぜか俺を見ながら感動している。
「え? みんな、どしたの?」
「どうしたのじゃないですよ! 突然走ったと思ったら八雲ちゃんをナンパから助けてますし!」
「躊躇なく助けに入るとか……カッコよすぎますよ!」
「やっぱり真人神様です!」
「ちょっと待って! それどういう意味なの立川さん!?」
なんだよやっぱり俺って!?
「ち、ちょっと待ってください!」
俺が三人を落ち着かせようとしていると、八雲さんが大声を出した。
びっくりして八雲さんを見たら、震える手で俺を指さし、なんか信じられないものを見るような顔をしている。というか人を指さすなよ……。
「えっと、どうしたの八雲さん?」
「ま、真人って……ま、まさか、中筋先輩ですか!?」
「あ、はい。中筋真人です」
「え……えぇぇぇぇぇぇっ!!?」
俺がさらっと自己紹介をすると、八雲さんはめちゃくちゃ驚いていた。
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