第714話 ビビる夕姫
私の今のロック画面は、バレンタイン前に真人が送ってくれた、中学時代に一哉君がこっそり撮影したぽっちゃりさんだった頃の真人の写真だ。
あれから二ヶ月くらい、私はロック画面はずっとこの写真に設定している。なぜなら───
「な、なんで、綾奈先輩が……そんな写真……デブの中筋先輩の写真を……?」
「私が真人を好きになったのはこの体型の頃からだもん。もう二度と見れない大好きな旦那様の姿をこうして大切に保管するのって、そんなにおかしいことかな?」
私が真人を好きになったのは中学三年の秋で、その頃はまだ真人はぽっちゃりさんだった。この写真を見て、顔が自然とにやけちゃうのって、普通のことだと思うんだけど、八雲さんは違うのかな?
「う、嘘、ですよね? 綾奈先輩が……そんなのを好きだなんて……」
「ちょっと夕姫! あんたいい加減に───」
「いいよ、ちぃちゃん。八雲さんとは、私が話をするから」
「っ! わ、わかった……」
私はちぃちゃんに、笑顔で言ったつもりだったんだけど、なぜかちぃちゃんは私を見て顔を強ばらせて、汗もかいていた。
ちぃちゃんのあんな顔、お姉ちゃんに怒られた時とかにしか見たことないけど、なにか怖い思い出もしたのかな?
今はいいや。それよりも八雲さんだ。
「ねぇ、八雲さん」
「は、はい……」
八雲さんはちょっと震えているみたいだけど、どうしたのかな? 寒いのかな?
私は構わずに続ける。
「さっき、真人を不真面目って、そう言ったよね?」
「い、言いました。じじ、実際そうでしょ?」
……当然だけど、八雲さんは中学時代までの真人しか知らない。この口ぶりからして、真人を嫌っている感じがするし、興味もなさげだから、既に中学の合唱部を引退したあとの……三学期の真人を知らないんだよね。
真人がぽっちゃりさんだった頃、私が好きになる前の真人を思い浮かべた私は、その時の真人に対する印象も思い出して───
「……そうだね」
八雲さんの言葉を肯定した。
「え? 綾奈ちゃん!?」
「な、なんで……?」
「中筋君が、不真面目なんて……!」
そういえば、舞依ちゃんはもちろんだけど、乃愛ちゃんとせとかちゃんにも、私が真人を好きになったきっかけを話したことがなかったね。だから、まさか私が肯定するなんて思いもよらないって思ってるんだ。
「綾奈先輩もそう思ってるのなら……どうして!?」
私は少しだけ間を空けて、八雲さんの目を見て言った。
「中学の頃の真人を思い浮かべて……私も真人を好きになる前は、八雲さんと同じことを思ってたからだよ。真人をよく見もしないで、勝手に自分で決めつけて。……いくら当時好意がなかったとしても、ちゃんと見ていれば、そんなこと思うはずもなかったのに……」
このタイミングで予鈴が鳴り、話は放課後に持ち越しとなった。
教室に戻ってスマホを見ると、真人から着信とメッセージが入っていた。
メッセージを確認すると、一宮さんたちが私に会いたいと言っていたらしく、今日高崎の駅に連れて行っていいかとのことだった。
私は了承と、八雲さんのことをメッセージで伝えた。
そういえば、屋上でちぃちゃんが誰かにメッセージを送っていたけど、誰に送ったのかは教えてくれなかった。
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