第710話 同盟について聞く

 翌日の水曜日、俺は一年生のクラスが並ぶ廊下を歩いていた。

 まぁ、今ここに来る理由……用がある人なんて、あの三人しかいないのだが。

「えっと、一宮さんたちはっと……」

 俺は廊下を歩きながら、一年生の教室を見て一宮さんたちを探す。

「こんなことなら、昨日あの子たちがどのクラスにいるのか聞いとくんだったな……」

「あれ? 真人神……真人先輩?」

 教室の方を見ていると、正面から女子生徒に声をかけられた。『真人神様』と言いかけたから、あの子らしかいないな。

 正面を向くと、そこには立川さんがいた。

「立川さん、ちょうどよかった。君たちを探してたんだよ」

「わ、私たちをですか!?」

 なんかリアクションがオーバー……というかちょっとビビってる感じだけど、なんでだ?

「うん。三人に聞きたいことがあるから、一宮さんと大島さんも手が空いてたら呼んできてほしい」

「わ、わかりました! すぐに呼んでくるので待っててください!」

 そう言うと、立川さんはピューっと駆けて行き、三組の教室へ入って、すぐに戻ってきた。昼休みもまだたくさんあるから、もっとゆっくりでいいのに……。


 俺は三人を連れて体育館裏にやって来た。聞きたいことが誰かに聞かれて、それが広められても嫌だったから。

 それにしても、なんでこの子らは昨日とは違いこんなにビクビクしてるんだ? 昨日は俺を見つけたらめちゃくちゃテンション上がってたのに……。

 そう思っていたら、大島さんが俺を呼んだ。

「あの、真人神様?」

「どうしたの大島さん?」

「わ、私たち……また何かやっちゃいました?」

「……え?」

 な、なんでそうなるんだ?

「真人神様が私たちを呼び出す理由が……それしか思いつかなかったので」

「ち、違う違う! 今回は本当に聞きたいことがあっただけだから!」

 でも、そうだよな。

 昨日注意した俺から呼び出されるのって、三人にそう思わせてしまうのも無理はない……か。

 ここに移動する前にちゃんと呼び出した理由を説明しておくべきだったな。

「……その、ごめんね。マジで怒ってないから、安心してほしい」

 俺はできるかぎり優しい口調で言うと、三人は警戒をといてリラックスしてくれた。


「それで真人神様……私たちに聞きたいことって……」

「うん。一昨日、修斗のお兄さんの久弥から聞いたんだけど───」

 俺は三人に、『圭×綾カプ至高同盟』について話した。

 今回三人に聞きたかったのはこれだ。

 昨日は昨日で三人に聞けなかったので、改めて今日、三人が何かを知っているのかを聞きたかった。

 ちなみに綾奈と千佳さんにもまだ言っていない。

 言い忘れたのもあるけど、高崎にその同盟に所属している女子が入学しているかもわからないし、不確定な要素もあったから、三人に話を聞いてから言おうと思っている。

「え? なんですかそれ……二人は知ってる?」

 一宮さんの問いに、大島さんと立川さんも首を横に振った。

 どうやら三人は知らないみたいだ。でもこうして話したから説明した方がいいな。

「その同盟は、中村と綾奈……俺の代の生徒会長と副会長の組み合わせこそ最強で、二人がカップルになるのを願ってやまないグループらしい」

 説明していてちょっと嫌な気分になったけど、顔に出さないようにしないと……!

「あぁ、私たちで言う、修斗君と西蓮寺先輩がくっつけばいいって思ってたやつですね!」

「そ、そうだね……」

 くぅ……、一宮さん、他意はないんだろうけど、やっぱりこう、メンタルは削られるな……。

「ちょっとみなみ! 真人神様が傷ついてるから!」

「いくら過去形とはいえ、それは禁句だよ!」

「あ……ご、ごめんなさい真人神様!」

「い、いや、いいんだよ。気にしないで……」

 この子たちは修斗のファンで、あの練習試合でもそれっぽいことを言ってたもんな。仕方ないよ。

「私たち、今は真人神様と西蓮寺先輩のカップルこそ至高と思ってますからね」

「そ、そうなの……?」

 あ、ちょっとメンタルが回復した。俺も単純だな……。

「おふたりが一緒にいるとこを見たのは、あの練習試合の日だけですけど、あれだけでお互いを想い合って、大切にしているのを見たら……ねぇ」

「理想のカップルーって思っちゃうよね!」

「うんうん!」

「綾奈もキレてたしね」

「「「うぅ……」」」

「あっ!」

 いけない! 今度は俺が三人の呼び起こしてはいけないトラウマを目覚めさせてしまった。

「ご、ごめん!」

「い、いえ、気にしないでください」

「あれは本当に私たちが悪いので」

「真人神様が謝ることじゃないです……」

 その後気を持ち直した三人は、俺にあることをお願いしてきた。

「あの、真人神様」

「どうしたの?」

「今日って放課後は……」

「部活もないから綾奈とデートだよ」

 水曜日なので、両校の合唱部はお休み。だから放課後になればすぐに綾奈に会いにいけるのだ!

「その、お邪魔はしないので、おふたりが一緒にいるところを見たいです!」

「えぇ!? なんで?」

 邪魔だなんて思ってないし、多分この子たちもすぐに帰るだろうけど……なんでいきなり?

「久しぶりにおふたりが幸せそうに並んでいるところを見たいな~って……もちろんすぐに帰りますから……ダメですか?」

「それだったら俺は全然構わないよ。ちょっと綾奈に確認するからちょっと待っててね」

「「「はい!」」」

 そんなに見たいのか。なんか嬉しいけど照れるな。

 俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、綾奈に電話をかけた。

「……出ないな」

 だけど珍しく綾奈は出なかった。

「ごめん、時間をおいてまたかけるから、あとで報告に行くよ」

「あ、でしたら連絡先を交換しましょう! 一年の教室に何度も来るの、大変でしょう?」

 俺は少し悩んで、三人と連絡先の交換をした。

 綾奈が電話に出なかったことについて、あまり深く考えなかったのだけど、まさかこの瞬間に、『圭×綾カプ至高同盟』のメンバーが綾奈に接触していることを知るのは、放課後になってからだった……。

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