第708話 修斗に確認とお願い
夕食を食べ、お風呂も入った俺は、ベッドに腰掛けてスマホを持ち、下校時に綾奈に言ったように、まずは修斗に電話をかけた。
まだ九時過ぎだから、寝てるなんてことはないと思うけど…………出ないな。
十コール……十五コール……ダメだ出ない。
仕方ないから先に茉子と話すかと思い、電話を切ろうとした瞬間。
『もしもし! 真人おにーさん!』
耳から離したスマホから修斗の声が聞こえてきたので、俺は再びスマホを耳に当てた。
「もしもし修斗。ごめん突然電話して。何かやってたのか?」
『ちょっと風呂に入ってまして……取るの遅くなってすみません!』
「いやいや、突然かけたのは俺なんだから、謝る必要はないよ」
これは、電話をかける前に一言メッセージを送るべきだったな。
今でこそ素直で普通に謝ったりもしているが、こうなる前の修斗は傲慢で自信家で、部でもクラスでも、友達以外ではあまりいい噂を聞かなかったそうだ。
それがここまで変わるもんなぁ。すごいよ本当に……。
『それで、俺に何か用事があったんですか?』
修斗が本題を切り出してくれた。このあと茉子にも電話をかけるからな。早く話してしまわないと。
「うん。……修斗ってさ、学校とか周りの友達に俺のこと話してたりしない?」
『……え?』
「今日、一宮さんたちが俺のクラスに来てね、修斗と茉子が俺を兄と慕っているってクラスのみんなに言ったんだよ」
『話してます。真人おにーさんはすごい人なんだぞって』
……予想通りなんだけど、一体どんな感じで話しているのかがスゲー気になる。めちゃくちゃ盛ってそうなのは予想できるけど……。
「それは今は置いとくとして……お前、茉子のことも喋ってるんだよな?」
『は、はい。……え? マズかったですか!?』
これも思った通りだな。自分の兄貴分……つまり俺を大きく見せるために、学校一のイケメンと美少女がめちゃくちゃ慕ってるって、ただ純粋に言っただけなのか。
マジでどんな風に話しているのかは気になるけど、今は口止めが先だ。
「実はな……茉子が俺を『お兄ちゃん』と呼んでいることは、綾奈や美奈、杏子姉ぇとか仲のいい人たちの前だけで、それ以外の人には秘密にしてるんだよ」
『っ! ……ま、マジですか!?』
「うん」
やっぱり知らなかったみたいだな。電話だから表情はわからないけど、さっきの息を呑む音や、今も呼吸が荒くなっている音が聞こえるから、ヤバいと思っているのは確かなようだ。
『お、俺……けっこうまずいこと、やらかしてますよね? ……ご、ごめんなさい!』
「いや、俺も口止めするの忘れてたし、それだけ修斗が俺を慕ってくれているのがわかって、ちょっと照れるけど嬉しかったよ」
『ま、真人おにーさん……』
俺も悪いし、修斗も反省しているのだから怒ったりはしないのに、修斗の俺を呼ぶ声がちょっと震えている。なんでだ?
『お、怒られても文句は言えない立場なのに……俺、真人おにーさんの懐の広さに感動しました!』
「えぇ……」
そんなオーバーな。思ったことを口にしただけなんだけど……。
ま、まぁそれはともかく、俺は一度咳払いをして、修斗にお願いを伝えることにした。
「修斗に三つお願いがあるんだけどさ」
『はい! なんでも言ってください!』
すげー従順になってるけど大丈夫かな? 俺がムチャなお願いを言うとは思ってないのか? 今回は言わないけどさ。
「まず一つは、これから茉子のことは他言無用にすること。二つ目は茉子のことを喋った人たちにもちゃんと口止めをすること。そして最後は、茉子にちゃんと謝ることだ」
一つ目と二つ目は当然のお願いだ。
そして三つ目……これはもしかしたら、このことを知った人が茉子に興味本位で俺のことを聞いてきて、茉子が困っているかもしれないから……俺もこのあと謝るつもりだけど、秘密を広めてしまった修斗にも、やっぱり謝ってほしいと思った。
茉子がこれ以上困らないためにも……そして、修斗とシスターズの仲がまた拗れないようにするためにも。
『わかりました! 早速明日から動きます!』
「うん。よろしくね。じゃあ俺は茉子に電話するから、切るね」
『その、真人おにーさん……すみませんでした』
「俺に謝らなくてもいいよ。その分茉子に謝ってやってくれ」
『わかりました』
「じゃあおやすみ。久弥によろしく言っといてくれ」
駿輔君にもって言おうとしたけど、多分あの子は俺のこと覚えてないと思ったからやめた。
『了解です。おやすみなさいおにーさん』
俺はボタンをタップして通話を終了した。
これで修斗は大丈夫だな。
さて、次は茉子だ。
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