第706話 今さらな照れ
最終下校時刻の午後五時半まで練習をし、茜を家まで送る一哉と別れた俺は、高崎高校の最寄り駅に来ていた。
理由はもちろん、綾奈と、そして千佳さんと一緒に帰るためだ。
併設せれているコンビニでココアを二つ買い、それをリュックのドリンクホルダーにさした。
現在の時刻は六時二十分。そろそろ来てもいい頃だが……。
「あ……」
構内から出入口付近を見ていると、千佳さんを見つけた。
そして綾奈が走って俺のもとへやって来て、その勢いのまま俺に抱きついた。うん、いつも通りだ。
「おつかれ綾奈」
「えへへ~、真人もおつかれさま」
「部活、疲れた?」
「ちょっと。でも真人に会えたから疲れなんて吹き飛んじゃったよ」
そんな嬉しいことを言ってくれた綾奈は、俺の胸に頬擦りをしてきた。
「俺も疲れが吹き飛んだけど、なんかいつもより嬉しそうだね」
学校が終わって一緒に帰ることはしばしばあって、その度に綾奈はとても嬉しそうな顔になってくれるんだけど、なんだか今の綾奈はいつも以上に嬉しそうだし、
「だって、部活が終わって真人と一緒に帰れるのがとっても楽しみだったんだもん」
「っ!」
なにその嬉しすぎる理由は!? 心臓がめっちゃ跳ねたし、なんだか気持ちが高揚してきた。
ど、どうしよう……もっとイチャイチャしたくなってきた。でもさすがにこんなとこではできないし───
「あんたたち、帰ってからイチャつきなよ」
「「っ!」」
千佳さんがちょっと呆れながら言ってきたことにより、ちょっと冷静になれた。
ここに千佳さんがいてくれてよかった。もしかしたら制御が効かなくなってる構内でさらにイチャイチャしていたかもしれないから……。
「そ、そうだね。ごめん千佳さん」
「ご、ごめんねちぃちゃん……」
「別にいいよ。やっぱりあんたたちはこうじゃないとね」
普通に頷いていいのかちょっと悩むところだけど……まぁいいか。
「うん。あ、そうだ……」
俺はリュックの両サイドのドリンクホルダーから、さっきコンビニで買ったココアを取ると、それを二人に差し出した。
「はいこれ。これで喉を回復させてよ」
「わぁ! ありがとう真人」
「あたしの分まで……ありがと真人。でもあんたの分は?」
「え?」
千佳さんに言われてはじめて気がついたけど、確かに自分の分は買っていない。
「あんたも部活で喉を酷使したのに……」
「そこまでじゃないから、気にしないで飲んでよ」
確かにちょっとだけ喉が痛かったりするんだけど、そこまでじゃないし、帰ってからケアすれば問題ないだろう。
綾奈を見ると、俺が渡したココアが入ったペットボトルをじ~っと見ている。どんな表情でも可愛いなぁ。
と思っていたら、綾奈の頬がポッと赤くなり、上目遣いで俺を見ながらこう言った。
「じゃあ真人……これ、一緒に、飲む?」
「へ?」
その言葉を聞いて、俺も頬が熱くなった。
一緒に飲むってことは……つまり、アレだよな?
「その、あ、綾奈がいいなら……」
「……うん!」
綾奈は徐々に表情が明るくなり、満面の笑みを見せてくれた。
いつものことだけど、この短時間で本当にドキドキしっぱなしだ。
「……いまさら間接キスで照れる関係じゃないじゃん」
そんな俺たちを見て、千佳さんは冷静にツッコミを入れていた。あえて思わないようにしていた『間接キス』というワードをバッチリ言いながら……。
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