第705話 2年生になって初めての部活へ

「や、やっと終わった……」

 放課後になり、俺は机に項垂れるようにして倒れ込んでいた。

 こんなに疲れたのは、間違いなく昼休みのアレが原因だ。

 そして俺につけられた大仰なあだ名。これはしばらく消えないと諦めているんだけど……、

「また明日な神、おつかれ~」

「バイバイ神様~」

 ……このクラスの陽キャどもが帰る際に俺に挨拶をしてくるんだけど、絶対に面白がっているのがわかる。顔を見なくてもわかる! だって声が若干笑ってたんだもの!

 だけどなにもリアクションをしないのも感じが悪いので、なけなしの気力を振り絞って右手をヒラヒラと振った。

 あの陽キャたちに、口止めがどの程度効果があるのかはわからないけど、とりあえず彼らを信じるしかない。

「おつかれ真人。……だ、大丈夫?」

 俺がまだ机に突っ伏していると、上から健太郎の俺を心配する声が聞こえてきた。相変わらず優しいなぁ健太郎は。

 さすがに親友にもこの体勢で対応するのは気が引けたので、俺はゆっくりと上体を起こした。

「あんまり。だけど大丈夫だよ」

 あんまり親友に心配かけるのもいけないしな。それにまだ気を抜いていい場合じゃないし。

 俺は立ち上がり、思い切り背伸びをする。

 目を瞑って背伸びをしていると、一哉の声が聞こえた。

「おい真人、部活行くぞ」

「おお」

 そう、俺と一哉はこれから部活だ。

 臨時の合唱部に所属している俺たちは、大会やイベントが近くならない限りは部活に参加する義務はないのだが、今年の夏のコンクールで全国に進むために、そして綾奈のいる高崎高校に勝つために、こうして今日から自主的に部活に参加することに決めた。もちろん顧問である坂井先生には昨日の入学式前に伝えてある。

 俺と一哉は、「頑張ってね」と応援してくれた健太郎、そして同じくこれから部活に行く香織さんに「頑張って」と言い合って音楽室へ向かった。


「こんにちは」

 俺たちが音楽室に入ると、他の正規の部員(全員女子)がほとんど揃っていて、突然入ってきた俺たちにびっくりしていた。

「あれあれ? 中筋君に山根君。どうしたの?」

 俺たちが突然来たことが気になったのか、明るい性格の先輩が俺たちに駆け寄ってきた。

「昨日、坂井先生に言ったんですが、今日から俺たちも通常の部活に参加しようと思いまして」

「え、そうなの!? でも臨時の子たちが参加するのは来月からなのに、なんで急に?」

「それは───」

「高崎高校に勝つため……そうよね? 中筋君」

 俺の言葉を遮り、俺の前方から歩いてきているのは、長い黒髪を三つ編みにし、黒縁メガネをかけた女子部員……部長の久保田くぼた真澄ますみさんだ。

 部長の表情は笑顔だったんだけど、気のせいかどことなく遠慮が見える。

 多分、自分の勘違いから起こした俺の退部事件がいまだに尾を引いているのかもしれないな。

 あれは解決したのだから、もういいのに……。

 ……っと、いつまでも答えないのはいけないよな。

「そうですね。綾奈と麻里姉ぇのいる高崎高校と同じステージに立つために、そして勝つために、俺と一哉も今日から部活に参加させていただきます」

「みなさんよろしくっす」

 俺がそうはっきりと答えると、一哉は軽く頭を下げたので、俺も下げておく。

「私たちは大歓迎よ。まずは夏のコンクールで全国への切符を手に入れましょう」

 そう言うと、部長は自分の右手を出してきた。

「……はい!」

 俺も右手を出し、部長と握手を交わした。

 なんだか、これで完全に春休みのわだかまりが消えた……そんな気がした。

 一哉も部長と握手を交わし、他の部員のみんなも俺たちを歓迎してくれた。

 程なくして坂井先生も来て、練習が始まったのだが、部員のみなさんと一致団結した嬉しさからか、テンションが上がり、今までにないくらい高いモチベーションで歌うことができた。

 部活が終わり、帰り際に部長にあるお願いをされた。

 今すぐに返事はできなかったので、予定がわかり次第伝えると約束し、俺は一哉と一緒に音楽室を後にした。

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