第704話 三校のカーストを統べる者

「どうしました真人神様?」

「いや、なんで君たちが茉子のことまで知ってるんだ!? それは俺たちしか知らなかったはずなのに……」

 茉子が俺を『真人お兄ちゃん』と呼んでいることは風見高校では俺たち六人、それ以外だと綾奈と千佳さん、美奈と雛先輩と修斗くらいしか知らないはず。なのにどこからその情報が漏れたんだ?

 俺が顎に手を当てて考えていると、茶髪の彼女があっさりと答えを口にした、

「え? 修斗君が言ってましたよ」

「あいつ……!」

 何勝手に秘密をバラしてんだ!? 俺も茉子も、秘密にしてくれってみんなに頼んだはずなのに……。

「あ……」

 ……そうだ。修斗のやつには言ってなかった!

 俺と修斗の出会いはかなり特殊で、修斗はその時に茉子が俺を『お兄ちゃん』と呼んでいるのを知ったわけだけど、確かにあの場で修斗には口止めしてなかった!

 それからも何度も会ったけど、そのことはすっかり忘れてたし、みんな同様、修斗も言わないだろうと思っていた。

 そして茉子や美奈も、修斗に口止めはしていないんだろうな。いや、もしかしたら、その噂を流しているのを二人が耳にして、それから口止めしたのかもしれないな。

「あ、あの……真人神様?」

「え?」

 俺が考え事をしていたら、青髪の子がなんだかおそるおそるといった感じで俺の名を呼んだ。というかそろそろ『真人神様』は勘弁してほしい。

「どうしたの?」

「あの……私たち、マズイこと言っちゃいました?」

「真人神様……なんだかちょっと怒ってる感じだったので……」

 他の二人もちょっとビクビクしている。どうやらちょっと態度に出すぎていたみたいだ。

「あぁ、ごめん! 今は自分を責めていたところだからさ」

「えぇっ!? ご自分を!?」

「ど、どうしてですか!?」

「マサはドMだからね」

「はいそこ! デタラメ言わない!」

 なんだよドMって……俺にそんな気はないぞ。

 俺は気を取り直すために一度咳払いをして、改めて三人に向き直った。

「実は茉子のソレは一部の人しか知らない秘密でね。修斗に口止めしていなかった自分を責めていたんだよ」

「そ、そうだったんですか!?」

「え、じゃあ私たち、けっこうヤバいことしたんじゃ……」

「ど、どうしよう……」

 三人は慌てていたり顔から血の気が引いたり、かなり焦っているようだな。大元を辿ればこの子たちは悪くないってのに。

「いや、君たちは悪くないよ。修斗に秘密にしてくれと言ってなかった俺が悪いからさ。だから気に病まないでいいよ。ただ、できればもう茉子のことはこれ以上言わないでもらえると助かる」

 これ以上秘密がバレるのは俺も、もちろん茉子だって本意じゃない。

 せっかく茉子が『お兄ちゃん』って呼んでくれているんだから、茉子が呼びにくくなる環境は作りたくない。

「ま、真人神様……」

「なんてお優しい……」

「こ、これが三校のカーストを統べる人の包容力……」

「ん?」

 なんか今、変なワードが聞こえた気が……なんだよ『三校のカーストを統べる者』って……。

 結果的に三人の俺に対する信仰心が上がった気がするが、茉子の秘密をこれ以上言わないことと、俺を『真人神様』と言わず、普通に先輩と呼ぶことを約束してもらった。

『三校のカーストを統べる者』について聞いたら、俺たちの中学と風見高校、そして高崎高校のスクールカースト最上位に位置する人たちと知り合い……慕われているからとのこと。

 変なワードについても完全否定したけど、納得してもらえるのに結構な時間を要した。

 そして三人は自己紹介をして自分たちの教室に帰っていった。名前はこの教室に入ってきた順に、一宮いっくみなみさん、大島おおしま果林かりんさん、立川たつかわ雪穂ゆきほさんだ。

 彼女らが帰ったあと、クラスメイトが俺を『神』だとか『統率者』とか言ってきて、俺のあだ名が決まってしまった。もちろん口止めはした。

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