第702話 真人神様再び
廊下から響いた『真人神様』という声。
この声を聞いた人全員の動きが止まる中、俺はゆっくりゆっくり、壊れかけのおもちゃのように首を動かして廊下を見た。
「き、君は───」
「え、いたの!?」
「あ、ホントだ~! 真人神様ー!」
「き、君たちは……!!」
忘れもしない。この三人の後輩は修斗のファンの子たちだ。
三学期のある日曜日……俺と綾奈は『サッカー部の練習試合があるから見に来てほしい』と修斗から言われ、母校の中学校に来ていたのだけど、ハーフタイムにこの子たちは綾奈に声をかけてきたのだ。
学校一の美少女と呼ばれ、生徒会副会長もしていた綾奈は、下級生からも絶大な人気を誇っていた。
俺をそっちのけで綾奈としゃべっていたこの子たち、綾奈が困っていたから俺も声をかけたんだけど、最初は俺を綾奈のストーカーって言ってめちゃくちゃ罵っていたっけ。
それで綾奈の怒りを買って、綾奈がキレている時にちょうど修斗が俺たちの元にやって来て、俺と綾奈の関係をこの子たちに説明してくれて、俺と綾奈が婚約していることを信じてくれた。
……までは良かったんだけど、この子たちが応援している修斗が、俺をめちゃくちゃ尊敬していると聞いて、どういうわけか『信仰しなきゃいけない』と言い出して、結果『真人神様』と呼ばれたんだけど、それはその場でやめてと頼んだはずなのに、なんでまた呼んでんだ!?
クラスのみんなは、この状況に頭が追いついてきたのか、徐々にフリーズが解除されて、何やら話し声が聞こえてきた。
「え、何? 真人神様?」
「真人って……中筋君だよね?」
「なんで中筋が神様扱いされてんだ?」
「しかもあの子たちも可愛くないか!?」
「え? もしかして中筋君が呼ばせてるの!?」
「中筋君って、見かけによらずそんな趣味が───」
「ちっがーーーーう!!」
さすがに黙って聞いてるのも危なくなってきたので、俺は席を立ち大声で否定した。
このままいけば、俺は『後輩女子に自身を神様と呼ばせる変態野郎』になってしまうところだった。
いや、現在進行形でピンチは続いてるな。
とりあえず否定しとかないと!
「俺にそんな趣味はない! この子たちが言ってるだけだ!」
「おい、真人……お前、さすがにその趣味は……」
「今はそんな冗談に付き合ってる暇はない! というかお前笑ってんじゃねぇか!」
一哉は肩をめっちゃプルプルと震わせて笑いをこらえてる。
「マサにそんな趣味があったなんて……お姉ちゃんは複雑だよ」
「俺さっき完全否定したよね!? なんで信じてくれないんだよお姉ちゃん!」
杏子姉ぇは、なんか涙をふく素振りを見せてるけど、絶対に涙なんて出てないし悲しんでないよな!?
「あ、お姉ちゃんだって! 聞いたあかねっち!? マサにお姉ちゃんって久しぶりに呼ばれた~」
「よかったねキョーちゃん」
「ちょっと黙っててもらえるお姉ちゃん!」
お姉ちゃんって呼んでたのって、俺がうんと小さい頃の話だ。
「綾奈ちゃんというお嫁さんがいるのに、それだけじゃ飽き足らずに神様とまで呼ばせるなんて……」
「だから違うって言ってんだろ! 頼むから三人ともここで悪ノリはしないでくれ!」
多分、俺が全力で否定したことにより、さっきよりは信じてくれた人が増えた。
だけど、なんだか一哉たちみたいに、これからの展開がどうなるのか楽しみな野次馬な連中も増えたのは確かだ。
「失礼します」
廊下から声がして、そちらを見るとあの子たちが教室に入ってきていた。
先輩の教室だから一礼したのか。
え、すっげー礼儀正しい子たちだな。
「先輩方。確かに真人神様の言う通り、私たちは自分の意思でそう呼んでます」
お、いいぞ。これで変態野郎の汚名をかぶらなくてもよくなりそうだ。
これであとは、俺が改めてそう呼ぶのを辞めさせたら万事解決───
「ですが、真人神様には、そう呼ばせていただけるだけの凄さがあるんです!」
あれ? これなんか変な方向に行ってない?
「今から私たちが真人先輩の凄さについて説明します!」
「いや、あの……ちょっと!?」
こうして、俺は許可してないのに、三人は俺のプレゼンを開始した。
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