第701話 香織も実食
「ところでマサ、この卵焼きって、もしかしてマサが作ったの?」
笑い終えた杏子姉ぇは、そんなことを聞いてきた。
というか、こんなにあっさり当てられるとは思わなかった。
「そうだけど、なんでわかったの?」
「なかなか甘かったから。良子叔母さんは多分、ここまで甘くしないと思ったから、マサが砂糖の分量でも間違えたのかなって」
「まぁ……当たりだよ」
確かに卵焼きを作る際、ちょっと砂糖を入れすぎたかなとは思ったけど、まさかこんなあっさりと見破られるとは……。
「美味しくなかった?」
「ううん、甘いってわかってたら驚く甘さじゃないから全然食べれる。あ、かおちゃんも食べてみてよ」
「え!? あの、杏子さん!?」
杏子姉ぇは箸を上下逆に持ち替え、半分になった卵焼きを香織さんの弁当の上に乗せた。
香織さんはいきなりのことで、顔を赤くしながら杏子姉ぇと卵焼きを交互に見ている。
杏子姉ぇはにこにこしながら香織さんを見ていて、返すとは言えない雰囲気だ。
いや、返すって言ったら普通に受け取りそうだな。これはアレだ、杏子姉ぇも香織さんが俺に抱いていた気持ちを知ってるから、自然とそういう行動に出たんだ。
いつものイタズラではなく、単純に『かおちゃんも食べたいだろうなー』みたいな感じで。
「ま、真人君の手作り……」
香織さんはそう呟くと、なぜか生唾をゴクリと飲んだ。
そして、なんか意を決したような表情になり、俺が作った卵焼きを箸で掴み、それをゆっくりと口の中に入れた。
真剣に咀嚼しているのを見て、なんだか俺も緊張してきた。
というか普通に作ってきただけなのに、どうしてこんな緊張する事態になってんだ!?
くっ、杏子姉ぇに卵焼きじゃなく、麻里姉ぇの旦那さん……
やがて香織さんは卵焼きを飲み込み、俺を見て感想を言ってくれた。
「……うん。確かに甘いけど……おいしい」
「ほ、本当!?」
「うん」
俺は一気に緊張から解放され、「良かった~」と言って椅子にもたれかかった。
まだまだ改善する必要があるけれど、とりあえず人の口に合う卵焼きが作れたようで安心した。
「ところでマサはなんで自分でお弁当を作ろうとしたの?」
「ほら、雛先輩の見送りのあと、俺たちの家族で焼肉店に行った時に、奏恵お姉さんから進路について聞かれただろ?」
うちの家族と杏子姉ぇの家族で、杏子姉ぇのお父さん……
それに、そこで綾奈の名前を出したら……考えすぎかもしれないけど、仲間はずれ感みたいなのが出そうで嫌だった。
「あったね」
「え、なになに? 真人とキョーちゃんの家族で焼肉行ったの?」
『杏子姉ぇと一緒に焼肉』というワードに、またもザワザワとしだす教室内。いちいち気にしていたらダメだな。
「うん。その時に杏子姉ぇのお母さんに進路について聞かれて、綾奈が俺と一緒に何かしたいって言ってて、俺も同じだったから、とりあえずもっと料理を上手くなろうと思ったのがきっかけなんだよ」
具体的に何をするのかは全然決まってないけど、とりあえずできることを伸ばしていこうと考えて、弁当作りを自分でやってみようと思ったのがきっかけだ。
その時に奏恵叔母さんが綾奈を杏子姉ぇと同じ道……芸能界を勧めようとしてたのにはびっくりしたけどな。
それにしてもどうやって? 杏子姉ぇの母親だから色々コネがあるのかな?
「でもすごいね真人。もう綾奈さんとの将来に向けて頑張ってるなんて」
「いやいや、綾奈とずっと一緒にいるための努力をしてるだけで、結果的にそれが将来への投資になってるだけだからな」
綾奈との将来のためと、自分のためだ。
「それでも行動してるのがすげーよ。俺と茜はまだなんもしてないのに」
「そうそう。それ以前に私は大学進学を目指さなきゃだし……」
そっか。茜は受験生だもんな。
杏子姉ぇは多分、ここを卒業したら芸能界に復帰し、役者一本で生きていくんだろうから受験する必要がないけど、茜はそうもいかない。
今年は、茜だけが苦労する年になりそうだな。
まだ時間はあるけど、俺も、綾奈と何をするのか、具体的に考えていってもいいかもしれないな。
「見つけました!
突如廊下から聞こえてきた女子の声に、教室内だけでなく付近の廊下も変な空気に包まれた。
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