第697話 義母のお出迎え
千佳さんと久弥と別れ、俺は綾奈と一緒に綾奈の家にやってきた。
そして綾奈が玄関の扉を開けると、一緒に帰っきたことを告げる。
「「ただいまー!」」
なぜ俺が自分の家でもないのに「ただいま」を言っているのか……理由は簡単で、俺がそう言わないと綾奈のご両親から言い直しを言い渡されるからだ。
俺を綾奈の婚約者と……家族と認めてくれているからこそ、そう言ってくれるから、すごく温かみを感じるんだ。
俺たちが靴を脱いでいると、リビングに通じる扉が開かれて、長い黒髪の女性……綾奈のお母さんが出てきた。
「おかえりなさい綾奈、真人君」
「ただいまお母さん」
「ただいまです。
西蓮寺明奈さん……とても優しく穏やかな性格の綾奈のお母さん。めちゃくちゃ美人で、とても四十代には見えない。
「ずいぶん遅かったわね。……どこかでイチャイチャしてたのかしら~?」
普通ならお昼前には帰ってこれるから、明奈さんの疑問はごもっともなんだけど、どうしてその理由がイチャイチャだと思うのだろうか? もっとないの? 入学式が押してしまったとか、新しい友達と話し込んだとかさ。
「ち、違うよお母さん! 私たちまだ、イチャイチャしてないから!」
「そ、そうですよ明奈さん。イチャイチャは……うん、してない……はずです」
途中からちょっと自信なくなってきた。ナンパから守るためにハグしたのは、あれはイチャイチャにカウントされるのではないだろうか?
俺たちを見て、明奈さんは「あらあら、うふふ」と上機嫌に笑っている。
「お昼ご飯できてるから、着替えてきなさい。真人君もここで食べちゃう?」
「いえ、帰ってから食べるつもりなので」
春休みもけっこうご馳走になっちゃったし、あまり甘えるわけにもいかないしな。
「あらそうなの? じゃあまた今度作ってあげるわね」
「あ、ありがとうございます」
明奈さん……ちょっと残念そう? 気のせいかな?
「真人、早く行こう」
「あ、あぁ……」
綾奈がまた俺の袖をクイクイと引っ張っきた。どうやら早くイチャイチャしたいらしい。もちろん俺も……。
「真人君もお昼食べる時間が遅くなっちゃうから、早めに降りてくるのよ」
そう言って明奈さんは俺たちににこにこと手を振りながらリビングに入っていった。前も思ったけど、今から俺たちが何をするのかを完全に理解しているみたいだ。
まぁ、ここで昼を食べないのに、綾奈が自分の部屋に連れていこうとしているのだから、その目的は限定されるからなぁ。
ということで、俺たちは自分専用のスリッパを履き、手を洗ってから階段を上った。
昨日買ったこのスリッパを早速今日使うことになるなんてな。
昨日の夕方、俺は綾奈と二人で、お互いの家で使う、自分用の生活用品を買いに行った。スリッパだけでなく、お茶碗、お箸、コップ、歯ブラシなどなど……。
だからこの家には、このスリッパ以外にも俺専用のものがいっぱいあるけど、そいつらを使うのは週末になりそうだな。
階段を上り切ると、奥に左右に一つずつ扉が見えるが、右が綾奈の部屋で左が綾奈のお姉さんの松木麻里奈さん……麻里姉ぇの部屋だ。
麻里姉ぇは結婚していて、今は旦那さんと一緒に生活していて、俺がここにお泊まりする時は麻里姉ぇの部屋をつかわせてもらっている。
俺は綾奈の部屋に入る前に、『今週末はまたよろしくお願いします』と心の中で言ってから綾奈の部屋に入り、扉を閉めた。
そして、すぐに綾奈との距離をなくして、後ろから綾奈を抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます