第692話 綾奈たちと一緒に来た男子生徒

 担任からの明日からの諸々の連絡事項を聞いてから下校し、俺は高崎高校の最寄り駅で下車し、構内へ入った。

 理由はもちろん、綾奈と、そして千佳さんと一緒に帰るためだ。

「しっかし、まさかアイツまで同じクラスだったとは……」

 アイツとは、一年の三学期が始まったばかりの頃、突如転校してきた杏子姉ぇの話題で今よりも持ち切りだった時、昼休みに俺のクラスに現れ、いきなり『中筋、お前をハグさせてくれ!』と叫んだガタイのいいアイツだ。

 遅刻ギリギリでやって来たそいつは、放課後になると俺の方にやって来て少しだけ会話をしたんだが……やり取りがナチュラルすぎて逆にびっくりした。

 俺をハグしようとした理由が、俺が杏子姉ぇのいとこで、俺が三学期の始業式後に杏子姉ぇにハグされたのを知っていて、『俺をハグすれば杏子姉ぇともハグしたことになるのでは?』 という間接ハグ理論を振りかざしてきたからだ。

 だが何故かその後に綾奈の話になり、綾奈との間接ハグを目論んできやがったから、俺がキレたんだけど……時間が経ってるとはいえ、ソレをやらかした本人がナチュラルに俺に話しかけてきて、やっぱりアイツはメンタルがダイヤモンドだと思った。

 ちなみに名前は泉池いずみいけつよしと名乗っていた。うん、確かに見た目強そうだしメンタルはある意味強かった。

 だけど、俺に話しかけてきた目的は純粋に俺や一哉たちと友好を結びに来たのか、それともまだ間接ハグを狙っているからなのかはわからないから、しばらくは注意する必要がありそうだな。

「おっ」

 泉池への警戒をしておこうと決めた時、外を見ていると千佳さんの色素の薄いオレンジ色の髪が見えた。

 やっぱり目立つなぁ。さすが歩くランドマーク(俺が勝手に言ってるだけ)だ。

「……ん?」

 だけど、千佳さんの隣……俺から見て右の方に男子生徒がいる。千佳さん、俺たち以外でああやって歩く男子の友達いたんだ。

 ……ということは、綾奈とも知り合い?

 そう思うと、俺の中にモヤッとした感情が現れた。

 いやいや、ありえないってわかってるよ。

 そう、これはただの───

「真人! おまたせ」

 男子生徒に意識を集中していたせいで、綾奈がすぐ近くまで来ていたことに気付かず、声が聞こえたと思ったら綾奈は俺に抱きついてきた。

「おおっと! 今来たことろだから大丈夫だよ」

 マジでびっくりしたけど、すぐに嬉しさに変わって、俺は綾奈の頭を優しく撫でた。

「まったく……あんたたちはどこでも相変わらずだねぇ」

 綾奈から遅れること数秒、千佳さんと男子生徒もこちらにやって来た。

 俺は改めて男子生徒を見るんだけど……けっこうなイケメンと同時に、どこかで会ったことがあるような……とも思った。

「中筋先輩。お久しぶりです」

 やはり彼は俺を知っている。

 この真面目な態度……思い出した!

「君は……確かアーケード内にある本屋で会った……」

 あれは確か、去年の十一月の上旬……俺が初めて綾奈を呼び捨てにし、初めて綾奈とキスをした日の翌日、放課後デートでアーケード内にある書店で別々で店内を見ていると、わりとすぐに綾奈がナンパされていたんだけど、その時ナンパしていたのが今目の前にいる彼だったのだ。

「はい。覚えていただけて光栄です」

「そんな大袈裟な……でも、無事に高崎高校に合格できたんだね」

「ありがとうございます」

 後輩君は俺に頭を下げてお礼を言った。

 初めて会った時から思ってたけど、やっぱり真面目だよなぁ。顔もいいし、絶対モテそうだよな。

 そんなことを考えながら後輩君を見ていると、俺に抱きついていた綾奈がゆっくりと離れてこう言った。

「ねぇ真人。彼のネームプレートを見てみて」

「ネームプレート? …………え!?」

 綾奈に言われた通り、彼の顔からネームプレートに視線を移動させたんだけど、彼の苗字を見た瞬間、自然と大きな声が出てしまった。

「よ、『横水よこずい』って……もしかして君は!?」

「はい。修斗しゅうと駿輔しゅんすけの兄……久弥ひさやです」

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