第690話 健太郎を勧誘

「あ、おはよう真人、北内さん」

「よっす真人、北内さん」

 俺と香織さんが教室に入ると、俺の大事な親友の一哉と健太郎がすぐに気づき、俺たちのもとにやって来た。

 先に声をかけてきたイケメンが健太郎で、隣にいるのが一哉だ。

「おはよう一哉、健太郎」

「二人ともおはよう」

「二人ともまた同じクラスになれて嬉しいなぁ。また一年よろしくね」

 健太郎はそのイケメンスマイルを俺と香織さんに向けてきた。

 そしてそのスマイルを横から見ることができた新しいクラスメイトの女子がキャーキャー言ってるのが聞こえた。

「ま、俺も嬉しく思うよ」

「お、素直だな一哉」

「うるせえ」

「あはは。じゃあ私は他のお友達のところに行ってくるね」

 香織さんは俺たちに手を振ってから自分の席にカバンを置き、一年の時からのクラスメイトの何人かの輪に入った。

「しかし、このあと新しい担任の挨拶と始業式、そして入学式か」

「真人と一哉は合唱部だから壇上で校歌を歌うんだよね?」

「あぁ」

 だから入学式は他の在校生とは別の場所で待機し、出番が来たら壇上に上がり校歌を歌うことになっている。

 合唱部といえば、一応一哉にも伝えておくか。

「なぁ一哉」

「なんだ?」

「俺、今月から合唱部の練習に参加しようと思ってるんだ」

「え?」

 俺と一哉は合唱部といっても臨時部員だ。臨時部員は大会はもちろん、文化祭や今日の入学式など、イベント事が近くなったら顧問の坂井さかい莉子りこ先生が招集をかけるんだけど、だからと言って別に普段の練習に参加してはいけないというルールはない。

「もっとスキルアップして、マジで全国に行きたいからな。全国に行って、高崎高校と……綾奈と同じステージに立って、綾奈に勝つために」

 そして俺がそれを決意したのは、個人的にそう思ったのもあるが、さっき言った……昨日交わした綾奈との約束も大きい。

「なるほどな……なら俺も付き合ってやるよ」

「マジか!?」

 一哉も協力してくれるのは予想……してなかったわけではないけど、こうも即答するってのは思ってなかった。

「おう。俺も全国行きたいし、それに茜と帰れる日も多くなりそうだしな」

「そっちが目的なんじゃないか……俺も同じこと考えたけどさ」

 茜もバレー部で、学校を出るのはいつも最終下校時刻の五時半だ。だから一哉も部活に出れば、わざわざ茜を待つ必要もない。

「二人とも大きな目標があってすごいなぁ……」

 健太郎は俺たちを尊敬の眼差しで見ていた。イケメンにそんな風に見られるのは悪い気はしない……そうだ!

「なら健太郎も合唱部入るか?」

「え、僕も!?」

「うん。健太郎、歌も上手いからきっと部にとって大きな戦力になるし、一緒に全国行けたら、ワンチャン一緒に観光もできるかもだぞ?」

 健太郎と友達になってから、何回かカラオケに行ったことがあるんだけど、本当に上手かった。帰宅部で俺たちに「すごいなぁ」って言うくらいなら勧誘した方がいいと咄嗟に思ったわけだ。

「いやでも、観光あるのか?」

「それは正直わからんが、去年は綾奈と千佳さんがお土産買ってきてくれてたからさ」

「あぁ、確かにな」

 あの時、帰ってきた二人を駅まで出迎えるはずだったんだけど、俺は熱を出して不参加になった。

 綾奈は疲れているのにもかかわらず、その足で家まで来てくれてお見舞いと看病もしてくれて、翌朝目が覚めたらローテーブルにお土産と綾奈の手紙があったから、俺の脳には今でも深く刻まれている。

「まぁ、強制するわけではないし、考えてくれたら嬉しいよ」

「そうだね。ちょっと考えてみるね」

 もしも健太郎が入ってくれたら、部活がさらに楽しくなるだろうし、モチベーションも上がること間違いないから、いい返事を期待しよう。

 それから程なくして新たな担任の三十代前半の男の先生が入ってきて、簡単なホームルー厶のあと、始業式のために体育館へと移動した。

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