第689話 新クラス発表と香織の変化

 俺の通う風見高校に到着し、俺はまずクラス棟と部室棟の間にある広場に向かった。理由はもちろん、新しいクラスを確認するためだ。

「おお、けっこういるな」

 広場が見えてくると、自分が何組かを確認する生徒で溢れていた……とまではいかないけど、今自分のクラスを確認するのは難しいくらいの人数がいた。

「ちょっと人が少なくなるのを待ってようかな」

 あの人だかりの中に飛び込んでいく勇気もなかった……というかそんな勇気を持つ必要もなかったので、俺は自分のクラスを確認して一喜一憂している生徒たちを見ていたら、一人のショートカットの女子と目が合い、その女子は俺へと走ってきた。

「おはよう真人君」

「おはよう香織かおりさん」

 俺の友人の一人……北内きたうち香織さん。二学期末テストの前に俺に告白をしてくれて、そこから友達になった女子だ。綾奈ともかなり仲良しだ。

 後ろ姿が俺の幼なじみで三年の東雲しののめあかねに似ているんだけど……あれ?

 香織さん……髪、少し伸びた?

「真人君は私と同じ一組だったよ。山根君と清水君も一緒だったよ」

「……え? あ、あぁ……そうだったんだ」

「また一年よろしくね……って、どうしたの? 私を見てボーッとしちゃって」

「えっ!? いや、ごめん。香織さん……髪、少し伸びたんだなって……」

 俺が香織さんの変化を口にすると、香織さんはため息をついて俺にジト目を向けた。

「……やっと気づいてくれたんだ。一日ついたちに下駄箱で会ったけど、その時から伸びてたんだよ」

「……マジ?」

 四月一日……俺は部活のために学校に来て、下駄箱で偶然香織さんと会ったんだけど、その時は全然気づかなかった。

「マジだよ。本当に真人君は綾奈ちゃん以外の女子の変化には疎いよね~」

「う……ご、ごめんなさい」

 た、確かに普段から綾奈しか見てないのは自覚してる。今日の千佳さんのようなわかりやすい変化でなくても、もっと早く気づけるようにしないといけないのかもな。

「謝らないでいいよ。むしろそれでいいんだからさ」

 香織さんは笑顔を向けてくれた。

「ところで、なんで伸ばすようになったの?」

「ほら、後ろ姿が茜さんと似てるなって思ってたから……」

「な、なるほど……」

 香織さんもそこは気づいてたんだな。


「くっそー! 同じクラスじゃないのかーー!」

 クラス表が張り出されている所から、男子生徒の叫びが聞こえてきて、俺と香織さんはびっくりしてそっちを見た。

 あれは……三年生の先輩が言ったのかな?

「残念だったな。俺は同じクラスだぜ」

「俺も~」

「お前ら代われ!」

「代わるわけねーだろ!」

「そーだそーだ」

 一喜一憂してるのは男子だけじゃなく、女子の先輩方も男子ほどじゃないけど騒いでいる。

 それを少し見て、俺はようやく答えに辿り着いた。

「ねえ香織さん、あれって……」

「うん。多分杏子さんと同じクラスになれたかなれないだかで騒いでるんだと思うよ」

「やっぱり……」

「杏子さん人気だし、文句なしの風見高校一の美少女だからね」

「まぁ……確かに」

 杏子姉ぇはいとこの俺から見てもめちゃくちゃ可愛いと思うほどの美少女だ。

 紫の長い髪が特徴的で、目鼻立ちもはっきりして、役者やってたからスタイル抜群だし……確かに非の打ち所がないよな。

「あれでイタズラ好きじゃなけりゃなぁ……」

 小さい頃は幼なじみの茜と杏子姉ぇとの三人でよく一緒に遊んでいたんだけど、二人とも当時から現在進行形で俺にイタズラするのが好きだったから、迷惑したと思ったことは一度もないけど、疲れるのもまた事実だ。

「そこも杏子さんの魅力じゃない?」

「……カッコ当事者は除く、が入りそうだけど」

「それだけ杏子さんも真人君が大好きってことじゃないの?」

「まぁ……そこは嬉しいんだけど、ね」

「あはは、素直じゃないなぁ。さ、早く教室に行こうよ」

「そうだね」

 俺と香織さんは、いまだに杏子姉ぇと一緒のクラスかどうかを確認して一喜一憂している先輩方を見ながら、自分たちの新しい教室に向けて歩きだした。

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