第686話 2年生初日の早朝(綾奈)

 四月十日。時刻は五時を少し過ぎた頃、私……西蓮寺綾奈はセットしていたスマホのアラームを止めて、ベッドを出て大きく背伸びをした。

「ん~~~!」

 今日から高校二年生。新しい学年のスタートなんだと思いながら、私は早朝の日課をこなすために準備を始めた。

 顔を洗ってパッチリと目を覚まし、部屋に戻ってパジャマを脱いで、ピンクのジャージに着替え、テーブルに置いてあるハンカチ……の上に乗せている二つのアクセサリーのうち、一対になっているペンダントを首に装着し、もう一つのアクセサリー……ピンクゴールドの指輪を手に取る。

「えへへ~♡」

 クリスマスイブに、私の大切で大好きな彼氏で旦那様……中筋真人君から貰った指輪。貰ってから三ヶ月以上経過してるのに、見る度に顔が緩んじゃう。

 真人とは今は別々の高校に通っているけど、中学までは同じ学校で、同じクラスになったこともあった。

 私が真人を好きになったのは中学三年の二学期なんだけど、好きになるまでは、正直真人にはいい印象がなかった。

 学校での真人しか知らなかったんだけど、たまに遅刻ギリギリに登校していたし、成績も下の方で、真面目な人じゃないって思い込んでいた。

 ある日、私は前日夜遅くまでのテスト勉強が影響していつもより遅くに登校していると、歩道橋の上でお婆さんと一緒にいる真人を見かけて、真人がたまに遅刻ギリギリで登校してくる理由を知った。

 あのお婆さんが歩道橋を登るのを手伝っているから遅くなってたんだ。

 それから私は真人への認識を改め、真人を意識するようになり、真人を観察して、彼の真面目さ、誠実さに気づき、気づいた頃には私は恋に落ちていた。

 でも私から話しかける勇気が持てず、そのまま中学を卒業してしまって、それきりだと思っていた。

 だけど、去年の夏の合唱コンクールで再会して、彼を見た瞬間、心臓が痛いくらい跳ねたのを今でも覚えてる。

 だって、久しぶりに見た真人はすっかり痩せていて、とてもかっこよくなってたんだもん。

 大会が終わって、帰る前にトイレに向かう真人を見かけて、偶然を装って待ち伏せして、初めてちゃんと喋った数分間はドキドキであまり覚えてなかったけど、それでもとても幸せな時間だったのははっきりと覚えている。

 その帰りに、私の親友のちぃちゃんが、真人を私のボディーガードにして一緒に下校してもらう案を出してくれて、二学期の始業式後にそれを実行……真人は快く引き受けてくれて、その一月半後にお付き合いができた。

 約半年で色々あった……本当に色々。

 中でも一番嬉しかったのが、やっぱりこの指輪を貰った時。真人が私とずっと一緒にいてくれるって誓ってくれた、あの観覧車での出来事。

 明確に言葉にはしてくれなかったけど、真人からのプロポーズを快諾して、私たちは婚約関係になった。

 今もその時のことははっきりと思い出せるし、思い出しちゃったから顔がまた自然と緩んじゃう。

「えへへ、真人……まさとぉ……♡」

 早く真人に会いたい。昨日も一昨日も……ほぼ毎日会ってるのに、真人に会いたくてたまらない。

 時計を見ると、もう二、三分くらいで真人がここにやってくる時間になっていた。

「そろそろ出なくちゃ……」

 私は弾む心を抑えながら部屋を出て、階段を降り、リビングに続く扉を開けて、キッチンでお料理をしているお母さんと朝食を食べているお父さんに「いってきます」と言って外に出た。

 やっぱり肌寒いけど、ランニングを始めた頃と比べれば温かいなぁ。始めたのが真冬だったから当たり前だけどね。

 軽く柔軟体操をしたら、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。

 私が会いたくて会いたくて仕方がなかった人が来たんだ!

 足音が聞こえてくる方を見ると、一人の男の人が走っていた。まだはっきりと顔が視認できる距離じゃないけど、間違いない。

「まさと~!」

 私は大きく手を振って、大好きな旦那様……真人の名前を呼んだ。

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