2年生編第1章 再会の新年度、忘れられない半年記念

第685話 2年生初日の早朝(真人)

 まだ夜が開けきらぬ午前五時。スマホから起きる時間を告げるアラームが控えめに鳴る。

 アラームが鳴った瞬間、俺……中筋なかすじ真人まさとはパチッと目を開けてアラームを止める。

 そしてベッドから起き上がり、大きく背伸びをした。

「ん、ん~~~…………はぁ!」

 うん。今日もバッチリ目が覚めている。

 今年の一月……高校一年の三学期初日から、ある事をするためにこの時間に起きるようにしたんだが、もう三ヶ月になるからさすがに慣れたな。

 最初の頃は寒さも相まってマジで起きるのが億劫だったが、もうしっかりと俺の日常に組み込まれているな。

 俺は軽い柔軟をして身体を目覚めさせ、クローゼットにかけてある黒いジャージに着替え、勉強机に敷いてある二枚のハンカチ……その上に置いてある、大切なシルバーの指輪とハートが半分に割れた一対いっついのペンダントを着ける。

 そして身体もバッチリ目が覚めた五時二十分。俺は自室を出て家族を……特に妹を起こさないようゆっくりと廊下を歩き、階段を降りて玄関へ行き、靴を履いて家を出た。

「よし、今日も行くか!」

 そう独り言ちて、毎日の日課になっている早朝ランニングをスタートさせた。


 まだ少し肌寒い四月の早朝……俺は走りながら最初の目的地に向かいながら、これまでのことを思い出していた。

 今でこそ規則正しい生活を送っているが、中学三年の二学期までは、俺はマジで自堕落な生活をしていた。

 今より二十キロ以上太っていて、勉強も嫌いで成績は下から数えた方が早く、それも改善しようとしなくてラノベ読んだりゲームしたりばかりでオタクライフを満喫していた。

 部屋も散らかり放題で、自堕落という言葉が俺にピッタリで、妹にも毛嫌いされていた。

 ではなぜ、そんな俺がここまで変われたのか……それは、俺がある人に恋に落ちたからだ。

 中学では学校一の美少女と呼ばれるほどの高嶺の花。成績もトップで生徒会の副会長も務めていた女性に、無謀にも恋してしまったんだ。

 完璧美少女のその人と自堕落でデブな俺……相手にされないのはわかりきっていた。

 だから俺は一念発起し、その人とお近づきになるために自分自身の改造を決意した。がむしゃらにダイエットをし、部屋も片付け、勉強にも真剣に取り組んだ。

 自分改造を決意したのが中学三年の冬休みからだったので、中学ではその成果が少しだけしか出ず、結局好きな人ともほとんど話すことなく卒業し、別々の高校に進学してしまった。

 普通ならそこで諦めて、自堕落な生活に戻ってもおかしくはなかったのだが、俺は諦めずにダイエットも勉強も続けた。

 俺たちの唯一の共通点……合唱を続けることで、再会できるという希望を捨てきれなかったからだ。

 そして去年の夏……高校一年の合唱コンクールの県予選で好きな人と再会を果たし、その時に初めて好きな人とまともにおしゃべりをしたんだ。

 あの時のことも、どんな気持ちだったのかも鮮明に思い出せる。

 数分間おしゃべりをしたが、好きな人の親友のギャルが呼びに来て会話は終了し、連絡先を聞けずに別れてしまった。

 今度会うのは好きな人の通う高校の文化祭かと思いながら夏休みを過ごし、二学期の修行式後に、なんとその親友のギャルが俺を、俺が通う高校で待ち伏せしていて、連れて行かれたファミレスで好きな人と予想外の再会をして、驚愕のお願いをされた。


 そのお願いというのが、俺が好きな人のナンパよけのボディーガードとして、好きな人と一緒に帰るというものだった。


 どうして俺に白羽の矢がたったのかはギャルの親友が教えてくれたのだが、要は俺が無害そうだったかららしい。

 俺にとったら願ったり叶ったりだったので、俺はそれを了承し、好きな人の部活がない日は一緒に帰る日が続いた。

 一緒に帰れる時間は本当に幸せな時間で、俺はどんどんその人を好きになっていった。

 一緒に下校するようになってから約一ヶ月半後……好きな人が通う高崎高校の文化祭でちょっとしたトラブルから、好きな人を泣かせてしまった。

 それをギャルの親友に話した時の『……は?』はマジでビビった。この人も俺を信じてボディーガードを任せてくれたのに、期待を裏切ってしまったから、何をされても文句は言えなかったけど、その人は俺の話を信じてくれて、俺が考えた計画……その手助けをしてくれた。

 その計画とは……文化祭で一般の人も大勢いる中、校舎の屋上からマイクに向かってその人への告白をし、俺がスピーチをしているあいだ、ギャルの親友にはその好きな人のそばにいてほしいというものだった。

「はぁ……ふぅ……そろそろ、見えてきたかな?」

 少し息を切らしながら、最初の目的地がちょっとだけ見えてきた。

 名前を出さずに告白スピーチし、夜に学校内の広場に呼び出して、俺は改めてその人に告白した。

 その結果───

「あっ」


「まさと~!」


 三十メートルほど前方で、俺を呼ぶ女の人の声が聞こえた。見ると、俺に向けて手を大きく振っている。

 あんなに声を弾ませて俺を呼ぶ女性なんて一人しかいない。

 俺が中学三年から恋をし、今は俺の最愛の彼女で婚約者……西蓮寺さいれんじ綾奈あやながそこにいた。


※次話更新は同日20時です

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