第684話(1年生編最終話) 大きな目標に向けて
スーパーでお互いの生活用品を購入し、俺は綾奈を送るために、再び綾奈の家に向けて一緒に歩いている。
お互いの手をしっかりと握り、握ってない方の手には買ったものが入ったビニール袋を持っている。
今回買ったものは、俺のお茶碗とお箸、お互いのスリッパと歯ブラシに口をゆすぐ水を入れるコップ、あとはお風呂で体を洗うタオルだ。
重いものはほとんど入ってないから全然余裕で持てる。
「ふんふふ~ん♪」
綾奈はにこにこ上機嫌で、鼻歌を歌っている。そんなお嫁さんを見て、俺も自然と笑顔になる。
「綾奈、ご機嫌だね」
「うん! 真人がうちで使うものをいっぱい買ったもん。これを見るだけで嬉しくなっちゃうし、早く使ってるところが見たいなぁ」
まったく、嬉しいことを言ってくれるな俺のお嫁さんは。
でも確かに、綾奈の言ってることはわかるな。
俺も、冬休みに綾奈があのお茶碗とお箸を使ってるのを見て嬉しくなったし。
綾奈がうちで使っているお茶碗とお箸は母さんが買ってきたけど、今回は自分たちがお金を出してお互いのものを買ったんだ。早く使っているところを見たいってのは俺も同じだし、それを見たらきっともっと嬉しい気持ちになるに違いない。
「俺も早く使いたい。まぁ、早ければ次の土日かな?」
来週、四月十六日の日曜日は、俺と綾奈が付き合ってちょうど半年の記念日だ。
どこかに行く
これだけ今日買ったものを早く使ってほしいと言ってくれてるから、お泊まりをするとしたら俺が行くことになるだろうな。
「半年の記念日は真人とずっと一緒にいたいなぁ」
「それは俺もだよ。帰ったら弘樹さんたちにお泊まりしていいか聞いてみよう」
「うん! えへへ♡」
綾奈はさらに上機嫌になり、腕を絡めてきた。
来週か……楽しみだなぁ。
日曜日はずっと一緒ってわけにはいかないけど、時間の許す限り、そして綾奈のご両親のご迷惑にならないギリギリまで居させてもらおう。
プレゼントは……どうしようか? ほとんど考えてなかったけど、事前に用意しなくても、出先で買ってもいいかもしれないな。
綾奈も俺にプレゼントを用意したり、デート中に何か買うって言うのかな? でも俺は綾奈がいてくれるだけで満足だから、買ってくれなくても全然大丈夫なんだけどな。
そういうやり取りも含めて、来週の半年記念が楽しみだ。
……そうだ。半年記念とは別に、ちょっと前から考えていたことがあったんだ。
これはまだ誰にも言ってないことだし、直接綾奈には関係ないことなんだけど、耳に入れておいたほうがいいと思っていたし、ちょうど会話も途切れてタイミングもいいと思うから言うか。
「綾奈」
「なぁに真人?」
「俺さ、合唱部の練習に参加しようと思うんだ」
「……え?」
俺が少し前から考えていたこと……それは今言ったように、合唱部の練習に参加することだ。
明日から新学期に入るし、二人きりになってる今が言うチャンスだと思って綾奈に打ち明けた。
「俺もさ、今年はマジで全国を目指したい。でも俺はまだまだ歌唱力が足りない。団体で競うから、俺だけがスキルアップしてもあまり効果がないかもしれないんだけど、それでも風見の合唱部が全国に行けるように俺ももっともっと頑張らないとって思ったんだ」
「真人……」
「綾奈が去年立った全国のステージに風見の合唱部みんなで立ってみたい。そして個人的に、綾奈の歌唱力に少しでも近づきたい。だから練習に参加しようかなって……」
「じゃあ、真人は正式に合唱部に入るの?」
「いや、あくまで臨時のままでいるつもりだよ」
臨時の合唱部員は、大会やイベントが近くなったら顧問である坂井先生に呼ばれて練習するようになるんだけど、 その時期以外に部活に参加することも認められている。
正式に部員になると部活優先になるけど、臨時なら臨機応変に動けるから、正式な部員になるつもりはない。
単純に男子の正規部員がいないからちょっと肩身が狭いって理由もあったりする。
そして風見の合唱部員事情は、綾奈も知っているわけで……。
「……真人が、女の人ばかりの空間に……むぅ」
このように、女子に混じって男子一人練習に加わることに嫉妬している。
「だ、大丈夫だって。部員のみんなは俺が綾奈と婚約してるの知ってるし、綾奈が心配してるようなことは絶対に起こらないからさ」
「……うん」
さすがに婚約者がいるのを全員が知ってるんだから、それでアタックしてくる人はいないって。そもそもあの中に俺に好意がある人なんていないし。
「それにさ、俺が部活に参加するってことは、それだけ綾奈と一緒に帰れる日が増えるってことだよ」
「ほんとっ!?」
すげぇ……さっきまで不安がっていたのに今は目をキラキラさせて俺を見てる。
「うちの合唱部の練習が終わるのは五時半で、高崎は六時だったよね?」
「うん」
「付き合う前にもさ、お互い部活終わりに毎日一緒に帰ってたから、俺が部活に参加したら、ほぼ毎日一緒に帰れることになるよ」
綾奈が来るまで高崎の最寄り駅で時間を潰してればいいわけだし、十数分くらい楽勝だ。
さすがに予定があって部活に参加できない日は一緒には帰れないが、それもあんまりないと思うし。
「……うん……うん! えへへ」
嫉妬も消え、綾奈はふにゃっとした笑顔を見せてくれた。
俺も下校は毎日楽しみになりそうだ。
綾奈は普通の笑顔になり、そして俺の目を見て言った。
「じゃあ真人、目標……立てない?」
「目標?」
なんの目標だろう?
「一緒に合唱コンクールの全国大会出場。そして……」
「そして?」
「高崎高校と風見高校……私たちで金賞を取る!」
「なっ……!」
「全国大会で金賞を取れるのは三校。難しいけど、努力したら届くと思うんだ」
全国で金賞!? 大きく出たなぁ。
それこそ、並大抵の練習じゃあ足りない。『少しでも綾奈に近づく』じゃなく、『綾奈を追い越す』くらいの心構えじゃないと全国で金賞なんて無理だ。
それにチームのモチベも大切だ。女子のみんなは部長をはじめ、みんな全国をマジで目指してるけど、男子はどうなんだろう? 全国の切符さえ手にしたら大丈夫そうではあるけど……。
「……面白いじゃん」
男としては、こういう展開は燃えるってもんだ。
「頑張ろうね真人!」
「おう!」
「でも……最優秀賞は高崎がもらうからね」
金賞を受賞した三校の中から選ばれる最優秀賞……高崎は去年、最優秀賞を逃してるから、みんな今年はそこを狙うに違いない。
だったら……。
「俺も負けないよ。頑張って食らいついて、最優秀賞に手を届かせてみせるから」
可能性はゼロに近いかもしれないけど、あがくだけあがいてやる。そして最優秀賞を取ってみせる!
「ふふっ」
「あはは」
新たな目標を立て、俺たち夫婦はほとんど日の落ちた道を綾奈の家に向けて歩いていった。
決して離すまいと、お互いの手をしっかりと握りながら……。
※ここからは1年生編のあとがきのようなものです。
どーも。水河悠です。
いつも『中学時代、学校一の美少女に恋した俺。別々の高校に進学した好きな人本人から、ボディーガードとして一緒に下校してほしいとお願いされた』を読んでいただき、ありがとうございます。
さて、ついに1年生編が終わりを迎えました。
この物語を書き始めたのは約2年前……その時はここまで書くことなんてまったく想定してませんでした。
マジで1章で終わらせる気だったのに、『もうちょっと書いてみようかな?』って気持ちから2章以降も書き始めて気づけばここまで長くなりました笑
連載期間約1年と11ヶ月、文字数約123万、話数はなんと684話ですよ!
まぁ、第3章あたりから1話あたりの文字数がガクッと減ったのでここまでの話数になってしまったのですが……。
拙い文章力、表現力もさることながら、誤字脱字もかなりあったにもかかわらず、ここまでお読みいただいた読者の皆様には感謝してもしきれません!ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
この続き……2年生編なのですが、もちろん現在も執筆中であります。
そしてこれまでほぼ毎日投稿をしてきた本作なのですが、ここで1ヶ月と少し連載をおやすみさせていただこうかと思っております。
もちろんその間もストックを増やしていくつもりです。2年生編が始まってからはまた毎日投稿を続けていきます。
気になっている方もいらっしゃるであろう(あってほしい)2年生編開始の時期なのですが……
6月5日の19時からを予定しております。
連載を開始してちょうど2年の記念日に、2年生編をスタートさせます!
さらに、その日は2話投稿もしたいと思っております!(これ、2話に分けなくても……って思われるかもしれませんが💦)
2年生編も変わらぬ……いや、1年生編以上のイチャイチャをお届けできるよう頑張って書いていきますので、これからもどうか真人君と綾奈さん夫婦を応援していただけると嬉しいです!
それでは、2年生編開始までしばらくお待ちください。
水河悠でした!
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