第679話 主役を夫婦でエスコート
俺と綾奈で茉子を連れて帰ると、既に杏子姉ぇが到着していて、俺たちを見つけると、俺たちに笑顔で手を振っていた。
明奈さんと弘樹さんと話をしていたようで、明奈さんのテンションがさっきよりも高く感じられた。
明奈さんもマジで杏子姉ぇのファンなんだな。
「あ、あの……みぃ……美奈ちゃんの親友の吉岡茉子です! 今日は、お招きいただいて、ありがとうございます!」
茉子が弘樹さんたちに挨拶をすると、明奈さんのテンションがまた上がった。
「きゃー! この子すっごく可愛いわね!」
明奈さん……もしかして美少女に目がないのでは……?
「綾奈の父の弘樹です。こちらこそ来てくれてありがとう吉岡さん」
「同じく母の明奈です。ふふ、真人君もなかなかやるわね~」
「あ、明奈さん……!」
どうやらさっきの……ケーキを作ってる時のモテる云々の話の時に、綾奈が三人の名前を出したのを覚えていたようだ。
娘の婚約者に対してこの手の話題でイジってくるってことは、俺が本気で綾奈から離れるつもりはないと信じられてるからだろうな。嬉しさでちょっとむずがゆい。
「なんの話ですか?」
「な、なんでもないよ茉子」
「マーちゃんあのね───」
「言わなくていいから杏子姉ぇ!」
茉子までイジろうとするなよな……。絶対に茉子は顔を赤くしてわたわたするんだから。
それから少しして、インターホンが鳴った。どうやら本日の主役が到着したようだ。
俺と綾奈は頷きあって一緒に廊下に出て、玄関の扉を開けると、美奈と、父さんと母さんがいた。
「いらっしゃい美奈ちゃん。良子さんと雄一さんもこんにちは」
「うん。お義姉ちゃん」
「こんにちは綾奈ちゃん」
「今日はお招きいただいてありがとう」
「というかお兄ちゃん、すっかりこの家に馴染んじゃってる……」
「まぁ、これだけ頻繁に来ていたらな」
綾奈と付き合ってから、月に一回以上は必ず来てるし、お泊まりもしているから慣れるのも不思議じゃない。
「さ、美奈ちゃん。みんな待ってるから早く入って」
「あ、やっぱり私たちが最後だったんだ……」
靴が自分たち以外の分を見て、美奈がちょっと申し訳ない顔をした。
まだ開始まで十分以上もあるんだから、落ち込まなくてもいいのに。
「主役ってのは最後に登場するもんだ。遅刻もしてないんだから気にするなよ」
「……うん。ありがとうお兄ちゃん」
美奈にちょっと笑顔が戻った。ガラにもなくマンガのセリフっぽいことを言ったかいはあったかな。
「じゃあ、父さんと母さんは先にリビングに入ってよ」
「あら、先に入っていいの?」
「リビングに入った主役をみんなでお祝いしたいからね」
最初のサプライズのためにね。
そのために昨日アレも人数分買ったんだ。父さんたちにも使ってもらわないとな。
父さんたちは、俺に言われた通り先にリビングに入った。廊下に残ったのは俺たち三人だ。
リビングからはみんなの話し声が聞こえる。
話し声が小さくなった……もうそろそろいいかな?
「よし、美奈、俺たちも入るぞ」
「うん。……え?」
美奈は俺と綾奈を見て驚いた。
そりゃ、俺が右手を、そして綾奈が左手を出してきてるんだから驚いちゃうよな。
「美奈ちゃん。お手をどうぞ」
そう、俺たち夫婦が、リビングまでのエスコート役だ。
エスコートと言っても、リビングまでは二メートルくらいしかないからほとんど一瞬だし、エスコートいるか? と言われればそれまでなんだけど、こういうのは雰囲気が大事だ。
「……うん!」
最初は驚いていた美奈だが、理解したら笑顔になって俺たちの手を取った。
そして短い距離を三人で並んで歩き、リビングの扉を開けると、中からパン、パン! と音が鳴った。
みんなが持っていたクラッカーの音だ。
「「美奈(ちゃん)(みぃちゃん)(みっちゃん)、お誕生日おめでとう!」」
突然の光景にまた驚き、目をぱちくりさせる美奈。
「美奈ちゃん、お誕生日おめでとう」
「美奈、おめでとう」
「みんな……お義姉ちゃん、お兄ちゃん……」
驚いた表情で俺と綾奈を見てくる美奈。
だけど俺たちの笑みを見て、美奈もすぐに笑顔になり、そして……。
「うん! ありがとうみんな!」
満面の笑みでお礼を言った。
こうして一日早い、美奈の誕生日パーティーがスタートした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます