第678話 完成。夫婦合作バースデーケーキ

 そんなこんなでバースデーケーキが完成した。

 七号くらいのサイズのケーキに、イチゴやブルーベリーをふんだんに盛り付けたシンプルなケーキだが、俺から見て右半分はクリームの塗り方にムラがある。

 実はスポンジ生地にクリームを塗る作業は、俺と綾奈で半分ずつ担当することにしていたのだが、綾奈が担当した左半分はほとんど均等にクリームが塗られていて、パッと見ではムラがあるかなんてわからないほど綺麗に塗られている。

 対して俺がやった右半分は、生地自体が見えることはないのだけど、クリームの量にバラつきが見られ、綾奈がやった部分と見比べるとどうしても見劣りしてしまう。

 絞り袋に入れたクリームを出す時も、力の加減がわからず、それも大きさがバラバラになってしまった。

 ガトーショコラはこういう工程がなかったと言えば言い訳にしかならないけど、綾奈のサポートがあったとはいえ、ぶっつけ本番で作るよりも練習をしたらよかったと、遅すぎる後悔をした。

「真人、落ち込まないで……」

 悔やんでいるのが顔に出てしまって、綾奈が慰めながら俺の頭を撫でてくれている。

「そうよ真人君。ちゃんとできてるんだから」

「うん。美味そうじゃないか」

「すみません……美奈のやつ、喜んでくれるか不安で……」

 この俺と綾奈の合作バースデーケーキ……じつは美奈には内緒にしている。

 多分、美奈のやつは綾奈のケーキが食べれると思ってワクワクしてるはずだけど、ケーキを見て俺も携わっていると知ったら、美奈はちょっとガッカリするのでは……と考えてちょっと不安になっている。

「絶対大丈夫よ。美奈ちゃんは真人君が大好きなのよね?」

「そう、ですね。そう言ってくれています」

「その大好きなお兄ちゃんも一緒にケーキを作ったと知ったら、美奈ちゃんはきっと喜んでくれるわ」

「見た目が悪いと思うなら、また来年リベンジしたらいい」

「明奈さん、弘樹さん……ありがとう、ございます……!」

 そうだよな。いつまでもウジウジしてるわけにはいかないよな。

 これが今の俺にできる精一杯の結果だ。

 不思議がると思うけど、美奈はきっと喜んでくれる……そう思ってあいつの前に出そう。

「じゃあ真人、最後にこれを」

 そう言って綾奈が冷蔵庫から持ってきてくれたのは、扇形の板チョコが乗った小皿だ。

 板チョコにはホワイトチョコソースで『Happy Birthday MINA』と書かれている。

 これは俺や綾奈が作ったわけではなく、翔太さんに事前にお願いしていたものだ。さすがにこんな技術、俺はもちろん綾奈にもない。

「うん」

 俺はポリ手袋をした両手で板チョコを持ち、慎重に、ゆっくりとケーキの上に置いた。

 これでケーキは完成だ。

「お疲れ様。真人」

「綾奈もお疲れ様。足引っ張ってごめんね」

「そんなこと全然思ってないよ。真人と一緒にケーキを作れて、すごく楽しかった」

「それは俺もだよ」

 見てくれはどうあれ、このケーキ作り自体はとても楽しかった。

 お嫁さんと一緒に何かを作るのも初めてだったし、いい経験になったのは間違いない。

 いい思い出になったし、しっかりと俺の頭と胸の中、そして明奈さんのスマホの中に残った。

 気づけばもうお昼になろうとしていた。パーティー開始は昼の一時からだから、あと一時間と少しか。

「ふたりとも、本当にお疲れ様」

「お疲れ様」

「ありがとうお母さん、お父さん」

「おふたりとも、ありがとうございます」

 労いの言葉をかけてくれたおふたりに、お礼を言った。

 テーブルにはいつの間にか、いつもとは違う、俺たちが昨日買ってきたちょっとオシャレなクロスがかけられている。明奈さんはほぼずっと俺たちの撮影をしてたから、弘樹さんがやってくれたんだな。

「あとはみんなが来るのを待つだけかしら?」

「そうなんだけど、美奈ちゃんの親友のマコちゃんが、うちの場所知らないから、ちょっと休んだら私と真人で迎えに行ってくるよ」

 今日のパーティーに参加するメンバーの中で、唯一茉子だけがこの家の場所を知らないからな。これも事前に打ち合わせしていた。

 主役の美奈よりも早く戻ってこないとだから、休憩も十分か十五分くらいだな。

「あらそうなのね。ふたりとも、気をつけていってくるのよ」

「うん」

「はい」

 そうして休憩もそこそこに、俺たちは茉子の家に向けて出発した。

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