第674話 夫婦が待ち望んでいた時間
手を洗っている間も、俺の心臓はずっとうるさいままだった。
明奈さんの、さっきの俺たちが二階でなにをするのかを見透かした……お見通しと言わんばかりのにこにこした表情と言葉が、さらにドキドキを加速させてくる。
それは綾奈も同じなのか、あれから一言も喋らない。
鏡で後ろにいる綾奈を見ると、ここまで帰ってくる時よりも頬が赤くなっている。
そんなお嫁さんを見て、さらにドキドキしてしまう俺。
俺の手洗いが終わり、次に綾奈が手を洗う。
俺は綾奈に顔を見られないよう、綾奈に背中を向けて、綾奈が手を洗い終えるのを待つ。
俺が背を向けている時点で、綾奈には俺がどんな気持ちでいるのかはバレバレだと思うけど、綾奈に顔を見られたくなかった。
絶対に早く部屋に行きたくて仕方がない……綾奈を催促するような顔をしているはずだから。
綾奈も手を洗い終え、俺が先頭で階段を上る。
綾奈が先頭だとほら……ミニスカートから伸びている綾奈の美脚に目がいって、さらに変な気持ちになりそうだったから……。
階段をのぼり終え、そのまま廊下を進み、綾奈の部屋の前に立ち、綾奈に扉を開けてもらって、まずは綾奈がゆっくりと自分の部屋に入った。
俺もすぐあとに続き、部屋の中に入ってゆっくりと扉を閉めると、綾奈はすぐさま体を反転し、俺に抱きついてきた。
「うおっ……!」
部屋を密室にした瞬間に抱きつかれて、予想はしていたけど反応できなかった俺は一歩下がり、軽くだけど扉に背中をぶつけて『ドン』という音がした。
びっくりしながらも、俺はゆっくりと綾奈の背中に手を回して少し強く綾奈を抱きしめた。
少しして、綾奈は上目遣いで俺の顔を見てきた。
「っ!」
あまりの可愛さ、そして物欲しそうな瞳で見つめられ、俺は息を呑んだ。
「まさ、と……」
綾奈は小さく俺の名を呼び、瞳を閉じた。
今すぐにでもキスをしてほしいようだ。
俺も、もう我慢の限界だ……。
俺たちの近くに人はいない。事情をわかってる明奈さんもリビングだ。
俺の家では綾奈の耳の感触を堪能したけど、それももうしない。
俺は少しだけ膝を曲げ、綾奈の唇に自分の唇を押し当てた。
「んっ……んん……」
綾奈はすぐに俺の首に手を回し、俺を逃がさないようにがっちりとホールドしてから舌を入れてきた。
「ま、しゃと……ん」
「あや、な……」
「ずっと……ん、ちゅう……したかった」
「おれもだよ、あやな……」
俺たちはキスをしながらゆっくりと腰を下ろし、俺が扉を背もたれにしながらしばらく夢中でキスをし続けた。
……キスをしはじめてから何分経ったんだろう?
俺はいまだに扉を背もたれにして座りながら、綾奈とキスをしている。
綾奈の体勢は最初とは違っていた。
一度唇を離し、綾奈はあぐらをかいている俺の足の上に乗っている。お姫様抱っこのような体勢だ。
手は俺の首のうしろだったり、片方は俺の手を握ったりしている。
俺はというと……まぁ、基本は綾奈の背中に手を回していたんだけど、こんな状態で理性が仕事をするわけもなく、綾奈の身体を色々と触ってしまった。
その度に綾奈からびっくりしたり、色っぽい声が聞こえて、脳が痺れて機能しなくなっていた。
多分、数十分ぶりに脳が機能しはじめ、時間を気にするようになってきた。
そろそろ降りて昼食を食べないと、明奈さんも食器を片付けられないよな。
片付けは俺たちがやればいいとしても、明奈さんが作ってくれた料理をそのままにしておくも躊躇われる。
だから一度中断して、ご飯を食べないと。
「あやな、そろそろご飯……」
「もうちょっと……したい……」
どうやら綾奈はまだ満足していないみたいだ。
前々から思っていたけど、綾奈ってキスが好き……キス魔だよな。
俺も綾奈とのキスは好きだし、俺も十分キス魔の部類に入ると思ったけど、綾奈はそれ以上だ。
まぁ、一日キスをしなかっただけでここまで夢中にお互いの唇を貪り合ってるんだから、以上か以下かなんて意味を持たない。
おそらくこれからも毎日、俺たちはキスをし続ける。
そんな幸せな未来が待っている……それだけで十分だ。
綾奈が満足するまでキスやイチャイチャを続け時計を見たら、ここに入ってから一時間近くが過ぎていた。
それだけ長時間綾奈が俺の足の上に乗っていたものだから、俺の足も痺れていた。
綾奈は「ごめんね真人……」と謝っていたが、幸せな痺れだったので謝る必要はないと返し、足の痺れが治ってからリビングに降りて、少し遅い昼食をいただいた。
お腹も心も十分に満たされたお昼だった。
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