第672話 店員さんとの再会
綾奈の取ったヘアピンは、ひとつの台紙に三つのヘアピンがセットになったやつだ。
シンプルなデザインで、色は赤、ピンク、白の三色。
「いいと思うよ」
俺は素直にそう思った。
「ありがとう真人。美奈ちゃんの髪って綺麗だから、変にデザインの凝ったのよりもこういったシンプルなデザインのほうが引き立つかなって」
「確かにそれは思うよ。それに美奈はまだ中学生だし、あまりアクセサリーもつけないから、そういった面でもシンプルなのがいいと思う」
ちょっと現実的な感想を言ってしまったが、間違いではないと思う。
アクセサリー初心者……かどうかは本当のことろわからないけど、すぐ近くにあるなんか色んなものが付いてあるヘアピンを貰ったら、もしかしたら扱いに困ってしまうかもしれない。
その点シンプルなデザインはそんな心配は皆無、どんな女性が身につけても似合う代物だ。
俺は綾奈から台紙ごと受け取り、裏を見た。
値段も千円ちょっとで、金銭面でも美奈が心配することもないから、綾奈のチョイスはさすがだと思った。
「じゃあお会計済ませてくるね」
「あ、俺も行くよ」
綾奈に台紙を返すと、そのままレジに行ったので俺も綾奈の後ろを追いかけた。
「これくださ……あ」
「いらっしゃいま……あら?」
レジに商品を置いた綾奈は、レジの向こうにいた店員さんを見てちょっと驚いている。
それは店員さんも同じなんだけど……この二人って面識あるのか?
「あなたは確か、クリスマスに指輪を購入された方ですね?」
「は、はい。その節はありがとうございました」
指輪? もしかして……これか?
俺は自分の左手の薬指にしてある指輪を見た。
「私は何もしていませんよ。ただ売っただけです。彼氏さんと来られたということは、受け取ってもらえたんですね?」
店員さんは俺の方を見て、にこっと微笑んだ。
「は、はい。受け取ってもらえて、今もずっと身につけてくれてます」
綾奈はそう言うと、俺を見て微笑んだので、俺は照れながらも左手を挙げて店員さんに指輪を見せた。
「ふふ、良かったですね……あれ?」
店員さんは、今度は俺を見てまたなにか気づいたような顔をした。
「ど、どうしました?」
「彼氏さんの方も……クリスマス前にご友人と指輪を買いに来られませんでした?」
「っ!」
「え?」
も、もしかして店員さん……覚えているのか!?
というか、会計してもらったのってこの店員さんだったっけ?
あの時、一哉と健太郎に綾奈のクリスマスプレゼントに指輪を勧められて買ったんだけど、店を出るまでは緊張しっぱなしで、どの店員さんがレジをしたのかなんて覚えていなかった。
今日までの数ヶ月の間に、相当な数のお客さんの対応をしているはずなのに、覚えていたのか。なんて記憶力だ。
「も、もしかして、この指輪ですか!?」
今度は綾奈が店員さんに、左手の薬指にしてある指輪を見せた。
「そう、それです!」
店員さんのテンションが上がった。
このお店の店員さんの人数ってどれくらいいるのかわからないけど、そんな偶然ってあるんだな。
「うわぁ……! こんな素敵なカップルさんが贈り合った指輪を二つとも私が売ったなんて……嬉しいです!」
「この指輪を彼から貰って、私たち婚約したんです!」
「えっ! じゃあそれって、婚約指輪として贈り合ったんですか!?」
「は、はい」
「はい!」
俺は照れながら、綾奈は嬉しそうに大きく頷いた。
「すごい! おめでとうございます!」
「「あ、ありがとうございます!」」
それから店員さんが「お二人ともお若いですよね?」って聞いてきたので、俺が「週明けから高校二年生になります」って答えたらさらにびっくりしていた。
高校一年で指輪を贈り合うカップルってやっぱり稀なんだな。
それから話題はヘアピンに。
レジ……大丈夫かな? 今のところは後ろに誰も並んでないみたいだけど。
「では、このヘアピンも彼女さん……奥さんへのプレゼントですか?」
他の人から奥さんって単語が出るとちょっとドキドキするな。
「い、いえ、俺の妹がもうすぐ誕生日なので、これは彼女から妹へのプレゼントなんですよ」
「そうだったんですね。もうお相手のご家族とも仲良しなんですね。ではプレゼント包装もいたしましょうか?」
「いえ、それは大丈夫です」
あれ? 包装はしないのか?
このまま渡すってわけでもないだろうに……。
「綾奈?」
「私も、自分でラッピングしてみようかなって」
なるほどな。俺が自分でするって言ったから、綾奈もそれに触発されたんだな。
「美奈はきっと喜んでくれるよ」
「えへへ……うん!」
綾奈は俺に満面の笑みを見せてくれて、俺も自然と笑顔になった。
「ふふ、ではこのままお渡ししますね」
店員さんも、なんだか微笑ましいものを見たように笑った。
そうしてお金を渡して、商品を受け取ると、店員さんに「これからも仲良しでいてくださいね」と言われたので、俺たちは力強く「はい!」と言ってからお店をあとにした。
小さな偶然が重なった嬉しい出来事に、綾奈は俺の腕に抱きつき、互いに笑い合って次のお店に向かった。
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