第666話 美奈と喋ってみたい颯斗

「ところで君たちは、エアホッケーをしないとなると、ここに来た目的って……」

 店長がここに来た目的を聞いてきたので、俺はそれを話した。

「あぁ、たまに来ては何かしらのフィギュアをゲットしているあの女の子か。というかあの子、中筋君の妹だったのか!」

「そうなんですよ」

 どうやら店長も美奈を認識しているようだ。ちょくちょくここに通っていてフィギュアを取っているから、そりゃ店長含む店員さんの目に止まるよな。

「は~、世間って狭いなぁ」

 店長が腕を組んでしみじみと言っている。

「店長は美奈……俺の妹と話したことはあるんですか?」

 俺たちよりもここに通っている回数が多いんだ。当然店長とも喋ったことくらいあるだろう。

「いや、ないな」

「あ、ないんですね」

 これは意外だな。

「ほら、俺ってこんなだから、女の子一人に声をかけるのも怖がらせてしまうかなって……」

 心なしか店長がしゅんとしてしまった。

 まぁ、確かに店長ムキムキで強面だから、大抵の人は見た目だけで怯んでしまう。

 俺も、そうだな。初めての時はちょっとビビった。

「店長さん、優しいのに……」

 今ではすっかり仲良しの綾奈も、初めて店長と話をした時は少しビビっていた。

「ありがとう西蓮寺さん」

「あ、だったら私が美奈ちゃんに店長さんのことを話しておきます。そうしたら美奈ちゃんもきっと親しみを持って店長さんと接すると思うから」

 俺から言ってもいいと思うけど、綾奈から言われたら更に信じるだろうな。

「お願いするよ西蓮寺さん。俺も中筋君の妹さんとはちょっと喋ってみたいからさ」

「はい。任せてください」

 綾奈は店長ににっこりと微笑んだ。それを横で見ていた俺は当然ながらドキッとした。

 そして俺たちのやり取りを見ていた周りの人たちが俺の視界に入っていたのだが、その人たちももれなく綾奈の笑顔に見惚れているようだった。

 やっぱり俺のお嫁さん……可愛すぎだろ。

「中筋君、フィギュアをゲットするんだろ? 西蓮寺さんに見惚れている場合じゃないぞ」

「……え?」

「ふえっ!?」

 店長に言われてハッとした。周りの人たちだけじゃなくて、俺も見惚れてしまっていた。

 綾奈は俺が見惚れていたのに気づいてなかったようで、びっくりして顔が赤くなっている。

「ま、真人……み、見惚れてくれていたの?」

「っ!」

 目を潤ませての上目遣いは反則だろ!?

 不意打ちでこんな顔を見せられてドキドキしない男なんていない。

 俺は顔を逸らし、綾奈と繋いでいない方の手の甲で口を隠しながら頷いた。

 これは『真人かわいい』が来るとふんでいたのだけど、今回は違った。

 綾奈は俺の腕にゆっくりと抱きついて、ふにゃっとした笑顔を見せて「えへへ♡」と笑い、俺の腕に額を猫のように擦り付けてきた。

 これによって、俺はまた抱きしめてキスをしたい衝動に駆られてしまったけど、ここは我慢だ。

 こんな場所でやってしまったらいい見せ物となってしまうし、店長も困ってしまう。そして恥ずかしさから、しばらくここには来れなくなるからな。

「なるほど、これがショウも言っていた二人のイチャイチャか」

「え? 翔太さん?」

「ああ、ちょっと前にショウと会ってね、それで中筋君たちの話が出たんだけど、ショウのやつ、『綾奈ちゃんと真人君は本当にお互いを想いあってすごいイチャイチャしてる』って言ってたな」

「何言ってるの翔太さん!?」

 翔太さんと店長、二人とも懇意にさせてもらってるし、綾奈は翔太さんの義妹だから、俺たちの話題も出ることがあるだろうけど、俺たち翔太さんの前でそんなにイチャイチャしてたっけ?

 ……まぁ、あったんだろうな。

「あっはっは! 仲良きことは美しきかなだな。それじゃあ中筋君、西蓮寺さん。フィギュアゲット、頑張ってくれよ」

 店長は笑いながら去っていった。

 俺たちは店長に会釈をし、クレーンゲームコーナーへ移動した。

 美奈が欲しがっていた金髪イケメン剣士のフィギュアを発見し、苦戦したけどなんとか四千円以内でゲットすることが出来た。

 痛い出費となったが、これで美奈の笑顔が見れるのなら、まぁ安いかな。

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