第665話 見られていた理由
「ねえ真人、クレーンゲームの前に、久しぶりにエアホッケーしようよ」
クレーンゲームのコーナーに移動している途中、綾奈からそんなお願いをされた。
ここに来るのも久しぶりだし、イコールエアホッケーも久しぶりだ。
身体を動かした方がイチャイチャしたいという気持ちをより紛らわすことが出来るから、綾奈の提案はめちゃくちゃありがたい。
「いや、今回はやめておこう」
だけど俺は、そんなお願いを断った。
「……え?」
俺が断るなんて微塵も思っていなかったのか、綾奈がショックを受けたような顔をした。お嫁さんのこんな表情を見るのは辛いけど、今はそのお願いを聞くわけにはいかない。
「な、なんで……?」
「俺だってもちろんしたいよ。でも綾奈、今スカートじゃん」
「あ……」
今の綾奈はミニスカートを穿いている。俺のためにいつもの私服よりも気合いを入れた服装なんだけど、そんな短いスカートを穿いてエアホッケーなんてしようものなら最悪パンツが見えてしまう危険がある。
そうでなくても、綾奈の美脚が顕になっているので、エアホッケーに集中している綾奈の脚をギャラリーが見放題になってしまう。
そんないやらしい視線の標的にはしたくない。そんな目で見ていいのは、俺だけなんだから。
「ごめんね真人」
「謝らないでいいよ。元々ゲーセンに来る予定はなかったしね」
「……うん」
「エアホッケーはいつでも出来るし、パンツがロングスカートでまた来ようよ」
「……うん!」
綾奈は元気になったけど、周りからいかにも残念そうな空気を感じる。
「おお、中筋君、西蓮寺さん。いらっしゃい!」
直後、俺たちを見つけた店長の磯浦さんが声をかけてきた。相変わらず制服ピチピチだ。
「「おはようございます店長(さん)」」
「おはよう。今日はやっていかないのかい?」
店長はそう言って、自分の後ろにあるエアホッケー台を親指でさした。
「そうですね。今日は遠慮しておこうかと───」
俺はエアホッケーをしない理由を店長に話した。
「ああ、なるほど。それは確かに……」
店長はすぐに納得してくれた。
納得しないやつは綾奈をエロい目で見てくる奴らだけだろう? 今もまだ残念そうな空気を出してる人が何人かいるし。
だけどこと後、店長が意外なことを口にした。
「君らのエアホッケー対決、この店でわりと有名だから、みんな観戦出来なくて残念なんだろうな」
「「え?」」
俺らの対決が、有名? 一体どういうことだ?
「あの、店長さん……それって」
「そっか、君らは知らないのか。実は、君らがここに来るとほぼ毎回エアホッケーをしてるだろ?」
「そうですね」
「しかもなかなか白熱した戦いだから、その試合を観戦した人たちの間で、『エアホッケーで熱い戦いをするカップル』って噂になり、それが他のお客さんにも伝わってね」
「マジですか!?」
それってつまり……。
「も、もしかして、私たちがエアホッケーをしないから、周りの皆さんは残念そうにしているんですか?」
「そういうことだね」
「「……」」
俺たちがゲーセンで有名になった理由が、予想していたのと全く違っていて、しかもエアホッケーということに驚きを隠せない。
「てっきり綾奈の美脚をじっくり見れないからとばかり……」
「ま、真人っ! あぅ~……」
俺、けっこう失礼なことを思ってしまったな。
「まぁ、中にはそういったのもいるかもだけどね」
店長はそう言って何組かのお客さんを見ると、その人たちは全員目を逸らしていた。中には『なんのことやら』と言いたげな表情で口笛を吹いている人までいる。BGMのせいでちゃんと吹いているのか吹マネなのかはわからない。
「あはは……」
それを見て、俺は苦笑いをするしかなかった。
「君たちのエアホッケーを見れると期待する人がいるのは確かだけど、それでもやりたくない時はやらなくていいよ。言ってしまえば君たちもただのお客さんだ。エアホッケーをしろと強要する人はいないし、仮にいたとしても聞く必要はないからね」
「「はい」」
実際、今日はしたいと思ってたけどね。
でも、そうだな……あんまりないと思うけど、学校帰りにここに寄ることもあるかもしれないから、事前に予定を立てていたら、綾奈にはショートパンツを穿いて来るようにお願いをしておこうかな。
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