第664話 見られる夫婦
ケーキを食べた俺たちは今、アーケード内にあるゲーセンに来ていた。
その理由としては二つあるんだけど、一つは綾奈の家でもイチャイチャするのが難しかったからだ。
ケーキを食べたあとも、麻里姉ぇや幸ばあちゃんたちはいたので、家の中でイチャイチャしたくて我慢するより、いっそ外に出て気を紛らわそうという結論に至った。
さすがにみんないる家でイチャイチャしていたら、麻里姉ぇがいつ自分の部屋に入ってくるかもわからないし、もしかしたら幸ばあちゃんたちにも気を遣わせてしまうかもしれなかったからな。
ここに来る前に、あの
それを見て俺は、イチャイチャしてる時間帯は暗いから人がいないのかと改めて理解した。
いつもイチャイチャしている場所がことごとく使えないこの状況に、俺も綾奈も悶々と時間を過ごすよりも、何かをした方が気が紛れると思い、ここにやって来た。
そして二つ目の理由は、美奈の誕生日プレゼントをゲットするためだ。
前に美奈が『このフィギュアが欲しい!』と言ってスマホの画面を見せてきたことがあって、それがゲーセンのプライズらしく、ここの店長の磯浦さんにメッセージで確認してもらうと、入荷予定があると教えてくれたので取りに来た。
本当は明日のお昼に取りに来る予定だったけど、明日はパーティーに必要な物を色々買い込むし、荷物も多くなるから、プレゼントだけ前倒しで今日にした。
「平日だけど、春休みだから俺たちみたいな学生が多いね」
「そうだね」
ゲーセン内を綾奈と手を繋ぎながら歩いていると、お客さんは俺たちと同じ学生がほとんどだ。そして男性客がほとんどだ。
午前中だからか、お客さん自体もそれほど多くはない。
だけど、俺たちとすれ違う人はみんな、綾奈をチラチラと見ている。
それもそうか。綾奈はめちゃくちゃ可愛いし、それに今は着ている服もとっても可愛い。
綾奈を見てしまう気持ちは痛いほどわかるんだけど、でもやっぱり俺の立場的には複雑だ。
「なんだか、真人も見られてるね」
綾奈も当然視線には気づいているみたいだな。
「そりゃ、めちゃくちゃ可愛い女の子が手を繋いでいる相手ってのは気になるもんだよ」
綾奈を見たあとに視線が俺に向けられ、『こんな超絶美少女の彼氏はどんなやつだ?』と値踏みでもされてるんだろうな。
まぁ、この手の視線はもう慣れたよ。
「可愛い……えへへ♡」
俺の一言に嬉しくなったのか、綾奈はふにゃっとした笑顔になり、俺の手を離したかと思ったら腕に抱きついてきた。
もちろん嬉しい。
嬉しいんだけど……本格的にイチャイチャしたくなるから……いや、考えるな。
「なぁ、もしかして、あの二人が?」
「そうなんじゃないか?」
俺が綾奈のことを考えないように、周りに意識を向けているとそんな話し声が聞こえた。
俺が声がした方を見ると、二人組の男子高校生がいて、俺と目が合うと二人はパッと視線を逸らした。
この二人の反応からして、『あの二人が?』がさしているのは俺たちだというのはほぼ間違いないけど、一体なんのことだ?
イチャイチャ……いや、人前でがっつりイチャついてなんてほとんどないし、そもそもあの二人組とは面識がない。
もしかして、以前の中村との騒動を見た人たちなのかもしれない。
だとしたら合点がいく。
中村が俺を蔑み、綾奈がキレて中村をビンタ。大声で俺を『未来の旦那様』と言い、そして俺にキスをした。
数ヶ月前だけど、有名にならない要素がない。見ていなくても人伝で噂が広まれば同じだもんな。
そう思うと、なんか他の視線もそういう意味が込められているのかもしれないと思うようになってきた。
前に一哉が、『お前も有名になった』って言っていたけど、もしかして校外でも有名になってしまったのか? そう思わずにいられなくなった。
だけど、俺たちはこのゲーセンで違う意味で有名になっていたことをこのあと知ることとなる。
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